2 ご褒美のあんぱん

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その出所のほうを見ると、そこには小さなパンコーナーがあった。 その瞬間、麻央の瞳はきっとハートマークが浮かんでいたに違いない。 「ぱっ、パン屋さん!?」 「そう。いつも立川さんが行ってるスーパーにはパン屋はないけど、ここの系列店なら、この店で焼いたパンも置いてあるよ。ま、スーパーのパンだから、大量生産感はあるけど。とりあえず焼きたてパンの欲求は満たされるんじゃない?」 そういうことまで考えて連れてきてくれたのか。いろいろいじってくるところはあるけれど、間宮のこういう気遣いには感謝しかない。 麻央は目を輝かせ、パンのラインナップを確認しに向かった。 「うわぁ、おいしそう〜。どうしようかなぁ……」 麻央はたくさんある中から、塩パンとパン・オ・ショコラを選ぶ。 これは明日の朝ごはんにしよう。と浮かれながらトレイに乗せた。 「包装は自分でね。そこに袋あるから」 「あっ、そうなんですね。了解です」 麻央はパンを袋に入れ、それらもカゴに入れた。 ふたりはレジに並び、それぞれ会計を済ませる。 滅多に買い出しに来られない麻央は、かなり大量に買い込んでしまった。 エコバッグに荷物をしまっている間に、間宮は自分の荷物を持って麻央の近くまで来る。 「バッグ足りるか?」 「大丈夫です、これで終わりなので。いやー、けっこう買いすぎちゃいました」 「ま、たまの買い物だとそうなるよな。……はい、それちょうだい」 間宮は麻央の荷物をひょいと持ち、スタスタと出口へ向かっていく。 麻央は慌てて手ぶらで彼を追いかけた。 「すみません、ありがとうございます」 「気にすんな。たいした重さじゃないから」 間宮はあっという間に荷物を後部座席に乗せ、運転席に乗り込んだ。 「間宮さんって、女性慣れしてますよね」 麻央はシートベルトをつけながら、そうこぼした。すると、意外とでも言いたげな表情で間宮はこちらを見ている。 「そう? まぁ、女に囲まれて育ったから、多少扱いには慣れてるかもしれないけど」 「あ、言われてみるとたしかに。女兄弟いる感じですよね」 「思えば、けっこう厳しく言われてなぁ。ほら、この間朝すれ違った時に来てた奴。あれが姉貴の美琴で、昔からいろいろ言われたわ」 麻央は間宮の説明から記憶を辿る。 そして、少し前に聡子から頼まれて資料写真を撮りに行った時に、彼の家の前ですれ違ったあの女性のことだと気がついた。 「えっ! あれ、お姉さんだったんですか!?」 「そうだよ。他に何に見えた?」 「私、てっきりふたりはご夫婦なのかと……」 麻央の発言に間宮は苦虫を潰したみたいな顔をした。 「やめてくれ、姉ちゃんと夫婦とか……」 間宮はよほど嫌なのか顔を青ざめさせ、肩をすくめる。 (そんなに怖そうな人には見えなかったんだけどなぁ。でも、そうか。既婚者じゃなかったんだ。今まで心配して損した) 昨日家に上がり込んだのも、別に問題なかったのだと思い、ホッとした。 「ていうか、俺は既婚者のくせして若い女の子を家に連れ込む奴だと思われてたわけ?」 間宮が鋭いところを追求してくるから、麻央は慌てだす。 実際そう思っていたわけだけど、いろんな状況を観察して麻央なりに結論づけただけだったのだ。 麻央は必死で、言い訳を探した。
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