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婚約破棄って、出来ませんの?
「どうして邪魔なさるのですか!」
キッと睨む私に、レイモンド兄様は頭を鷲掴みにして叫んだ。
「フレイア! お前はこの国の第一王子、アティカス様の婚約者だろうが!」
──その言葉に、私はムンクの叫び顔になった。
「な、なんですってぇぇ!!」
そうだった。記憶の片隅にある。
五歳の誕生日に、悪役令嬢フレイアは“フラソ”攻略キャラ人気No.1のアティカス王子と婚約する。
つまり今日が──その誕生日。
「な、なんということでしょう……。
五歳の時点で既に婚約者だったなんて……」
膝から崩れ落ちた私を、レイモンド兄様が心配そうに覗き込む。
「フレイア、本当にどうしたんだ?」
「兄様……」
「具合が悪いのか?」
さっきまで私の頭をバカスカ叩いていたくせに、今度は本気で心配顔。
私は涙目になりながら、ぽつりと呟いた。
「……婚約破棄って、出来ませんの?」
レイモンド兄様の顔がピシッと引き攣る。
「出来るか! このバカ者!!」
兄の怒号が部屋に響く。
「レ、レイモンド、落ち着いて。
フレイア嬢も、本当にどうなさったのですか?」
止めに入ったのは、そう──魔法学園の先輩ことルイス様。
(きゃー! やっぱり優しい……!
生ルイス様、尊い!)
怒り狂う兄を諌め、泣く私を慰めるその優しさ。
困ると眉が下がるその表情。
タレ目のまま真剣な声。
(あぁ、全人類にこの愛らしさを布教したい!!)
見た目は五歳、心は三十五歳の元オタク女。
穴という穴から血が噴き出しそうなくらい興奮していた。
推しがいる。
この世界に“生きて”存在している。
その事実だけで生きる希望が溢れてくる。
「……とにかく休め、フレイア」
「兄様、頭を掴むのはおやめ下さいまし!」
「余計なことを言うな!」
兄妹ゲンカのような口論の中で、私はひとつの事実に気づく。
そう、この“世界”こそが──
乙女ゲーム《花の聖女と伝説の剣》の舞台。
そして私は、その悪役令嬢フレイアなのだ──!

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