プロローグ

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プロローグ

・・・・チチチチチ。 木漏れ日が差し掛かる森。 小鳥たちの声が、あちこちから聴こえてくる。 「今日も貴方たちは元気ね。」 木々が生い茂る森に、少女が1人小さな籠を抱えて歩いている。 その様子は、まるで有名な童話のワンシーンのようだ。 少女の傍らには、彼女の倍はある鹿が寄り添っている。 「小鳥たちは君と会えるのが楽しみらしい。」 深みのある声で呟く。この森には少女以外言葉を発するモノはいないはずだ。 声が聴こえた方へ少女が顔を向けると、隣を歩く鹿が首を下げてくる。 「私は貴方の声しか聴こえないから、教えてくれるのはありがたいわ。」 そう言って少女は微笑み、鹿を撫でる。 少女は生まれつき不思議な力を持っている。 1つは人の数十倍聴力が高いこと。 数十倍というと分かりにくいが、物凄く集中すると50メートル先の会話まで聞こえてしまうくらいの能力だ。 しかし、その力の代償なのか視力が通常の人間より弱い。 一般的に言う「目が霞む」という症状が続いている状態に近い。 それに加え、聞きたくない内容なんかも聞こえてきてしまう為、普段はその能力を使わないように抑える訓練を行っている。 2つ目は、やたらと動物に好かれること。特殊能力かと言われると微妙かもしれないが・・・ 街を歩けば、散歩している犬や野良猫などが寄ってくるし、喧嘩している動物がいても、カティが近寄れば喧嘩をやめて擦り寄ってきてしまう。 この能力は家族だけが知っているものであり、他人には一切話した事はない。 少女が森に踏み入ると、大小問わず動物たちが近寄ってくる。 最初はみんな少女が気になり、無遠慮に近付いてスキンシップを取ろうとして来た。 少女もそれが嬉しくて応対していたが、数が多すぎて最終的には・・・・・・・埋もれた。 見るに見かねた、この森の長である鹿のゼンが森の動物たちを窘めた。 ゼンは、人間に例えると100歳は優に超えており、この森がまだ出来上がる前から住み、共存してきた。 しかし、この森にはゼンのような性質を持つ動物は他にはいない。 自然の理に逆らうことなく、寿命を迎え次の転生を待つ。 ゼンがこのような性質を持って生まれたのかは未だに謎のまま。 というより、この事実を知るのは目の前にいる少女のみだ。 「カティ。今日はどこまで行くんだい?食料はまだ足りているだろう?」 「そうね・・・。森の中をお散歩するのは好きなのだけれど・・・。」 うーん・・・とカティと呼ばれた少女は悩む。 少女は、「カティア=ラングレイ」。ラングレイ公爵家の三女である。 公爵家の彼女がどうしてこんな森に鹿と一緒にいるのか。 簡単に言えば・・・・・・・・・・・誘拐されたのである。
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