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「・・・・!!!!!」
裏口の扉が開く音がしたと同時に、動きが止まったカティの身体が引っ張られた。
「(俺だ!良いか、声を出すなよ?)」
頭上から小さくダグの声がする。
了承した、と分かるようにカティは頷く。
心臓がバクバクしている。扉が開いた音が聞こえた時、正直終わった・・・と思った。
ダグはカティを抱えて裏門から少し離れた森の中へ移動し、館が見えなくなった所で降ろした。
「念の為、裏門で張ってて正解だったな。」
ダグはニカっと笑って、カティの頭を撫でた。
頭を撫でられるなんて何年振りだろう・・・。カティは少し照れ臭そうに身をよじった。
「本当に助かりましたわ。扉が開いた瞬間、身体が動かなくなってしまって・・・終わったと諦めかけていました。」
「俺も正直どのくらいの時間で交代が終わるのかが分からなくてな。何かあっても誤魔化せるように待っていたんだ。」
「さすがですわね。この後―。」
ここからどうするか話そうとしたカティの口をダグの手が塞ぐ。
「シッ―。」
ダグが聞き耳を立てる。
カティも真似して耳を澄ましてみると、遠くで叫んでいる声が聴こえてきた。
カティが館を抜け出したことがバレてしまったらしい。
夕食後はいつも放置されているから、抜け出したことが何故バレてしまったのかは分からない。
「まずいな。こっちに来るのも時間の問題だ。俺はこのまま館に戻る。嬢ちゃんはこのまま真っ直ぐ突き進め。森を越えたら街があるはずだ。」
「でも・・・!もし、私を逃がしてしまったことが分かってしまったら・・・!」
涙ぐんだ目でダグを見上げる。
泣きたくない、でもここまで助けてくれたダグが何かされてしまうのではないかと思うと怖くてたまらない。
震えるカティの手をそっと握り締め、ダグが笑う。
「大丈夫だって!俺はこれでも上の人間なんだぜ?どうにかなる!だから、嬢ちゃんはこのまま逃げてくれ。」
ダグはカティを抱き締め、落ち着くようにと背中をポンポンと叩く。
小さい子を宥めるようにされて、恥ずかしくなる。
でも、そうしてもらったおかげでザワザワしていた心が落ち着いた。こぼれそうになっていた涙を拭き、決心した顔をダグに見せた。
「ここまで本当にありがとうございました。この恩は絶対忘れませんわ。」
淑女らしく、綺麗なカーテシーを見せる。
裾を切ってしまった為なんとも言えない格好だが、今できる精一杯の礼だ。
「おう。今後もう会うことはないだろうが、嬢ちゃんの事は忘れねぇよ。」
そう言うと、ダグは館の方へ戻って行った。
見えなくなるまで背中を見送りたい気持ちを振り切って、カティは森の道を走り出した。
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