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ガイアの森に住む獣
夜の森は思っていたよりも暗い。
新月ということもあるが、それ以上に暗い気がする。
森の中からは、虫の声と一緒に獣の息遣いも聞こえてくる。
貴族の少女が1人で森の中を歩くことなんてない為、カティの心は恐怖でいっぱいになっている。
それに、いつ追手が追い付いてくるかも分からない。
後ろを振り向いて確認をしたいが、その一瞬が命取りになるかもしれないという事もあり、カティは前を向いて走るしかない。
ダグと別れてからどれくらい走っただろうか。カティの体力も限界を迎えており、息も絶え絶えになりながら走っている。
ダグが言っていた街はあとどのくらいで着くのだろう。あの言い方だとそこまで遠くないと思っていた。
これ以上走れないと思って止まりそうになった瞬間、鬱蒼としていた森の視界が急に開けた。
森を抜けたら街があると聞いていたが、目の前に広がる光景は確実に街ではない。
カティの目に映るのは、淡く青く光る大木が1本。そして、大木の根本に広がる花畑だ。
息を整えるとむせかえるような甘い花の香りが辺りに充満しているのが分かる。
カティは恐る恐る大木に近付いていく。
光る木なんて聞いたことも見たこともないが、嫌な感じは特にしない。
だけれど、近付くには恐れ多い気がして身構えてしまう。
大木の目の前まで来ると、足元の花達も大木の光を吸収しているのか、同じように光っている。
怖いような、落ち着くような不思議な感覚に陥る。
カティは、そっと大木に手を伸ばしてみた。
すると、その瞬間大木に纏っていた光がカティを包み込んだ。
「えっ・・・!」
慌てて手を引くが、カティを纏った光は離れていかない。
熱くもなく、痛くもなく、ただ暖かい・・・。
ぬるま湯にたゆたうような感覚が緊張をほぐしていき、段々とカティの意識が薄れていった。
「これは・・・な・・に・・?」
そう呟いて意識が途絶え、カティの身体は大木の前で倒れた。
すると、今まで木々に隠れていた色々な種の動物たちがカティの周りに少しずつ集まりだした。
まるで大事な宝物に触れるかのように、そっとカティに触れていく。
集まった動物たちが一通りカティに触れ終わったであろうという時に、一際大きな身体を持つ鹿が森の奥から歩いてきた。
大きさ以外の見た目は普通の鹿と同じように見えるが、これが神々しいという言葉を使うのが正しいのかと思うくらいの印象を与える。
ゆっくりゆっくりとカティに近付き、隣まで歩いてくるとその大きな鹿はカティに寄り添って座った。
まるで物語に出てくる騎士のように・・・。
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