「ぼく」のみたこと

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カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 よくあることです。 そう、よくあることなのです。 あちらの町には爆撃機が何機もやって来たと。遠い地では兵隊さんたちが敵をやっつけたと。別の地ではすごい作戦が展開されているのだと。 やがて戦争は終わりを告げるのだと。 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 カチ、 その噂の通り、季節が一回りもしないうちに終戦を迎えました。 我が国は どおん 我が国は カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 カチ。 かえってきたひともいました。かえってこなかったひともたくさんいました。 ぼくたちは、ぼくたちは、なんのために産まれてきたのでしょう。 なんのために生きてきたのでしょう。 天皇陛下のお声をラヂオでききながら、ぼくは思いました。 今でも覚えております。あの夏は酷く寒かった。 私たちは飢えていた。着るものもなかった。 結局最期まで、私の元には赤紙が、召集令状が届くことはありませんでした。 その後どうなったか、私よりも歴史の勉強をされたあなたならお分かりでしょう。 大日本帝国は戦争に敗れたのです。 ちっ ちっ ちっ ちっ ぽーん ちっ ちっ ちっ ちっ ぽーん ちっ ちっ。(ぴ) ちっ。(ぴ) ちっ。(ぴ) ぽーーーん ちっ ちっ ちっ ちっ ぽーん 私は今でも怖くなります。頭上を、あの金属の塊が飛んでいると思うと。また、私たちの町に爆弾を落としていきやしないかと。 サイレンの音がこわいのです。敵がこちらに向かってきていると告げられるのではないかと。 私たちはたくさんのものを壊し、奪いながら生きてきました。だから奪われても仕方がないのです。壊されても仕方がないのです。 特にあの数年間、どれだけのものが世界から消えていったか。 なくしたものはもどらないのです。 ぼくたちは、戦争に勝てば全部もどってくるのだと思っていた。そういう部分もあったのかもしれません。 自分たちがなにをしているのか、おとなもこどもも理解していなかったのです。 後悔した時には全てが遅く、何十年も後になって「あれ」が間違いだったと気づかされるのです。私たちは愚かだった。 その愚かさに気づかぬほど、気づけないほど、世界は「戦争ごっこ」に夢中となっていたのです。
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