「ぼく」のみたこと

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みなさん、聞いてください。 これは私が幼かった、もう何十年も昔の話です。過去の話です。 若いあなた方にはわからないでしょう。ですが、この国のこの町で、確かに起こったことなのです。 昭和二十年×月××日の××時××分に起こったことなのです。 もうすぐ私ハ事切れるデショウ。 毎日毎日思い出すのです。あのサイレンの音を。落とされた爆弾のことを。亡き親友のことを。父のことを。二人の兄のことを。 いつもおもうのです。この日本の地で焼かれ苦しみながら、亡くなっていった人たちのことを。遠い祖国ではない国の地で亡くなっていった兵隊さんたちのことを。 ナンデ、ウマレテシマッタノカ。 全てのものが終わるために始まるというなら、それでいいでしょう。ですが、なぜそのために私たちはあれほどの苦しみを受けなければならなかったのか。 「平和」である世に産まれたあなたにはわかりますまい。ええ。解らなくていいことなのです。 そのために私たちは死んでいくのです。 知らなくてイイのです。 ですが、聞いてください。私の声を。 私たちの、声を。 理解してくれなくてもイイのです。 ですが、聞いてください。私の話を。 私たちの話を。 ああ、もうすぐ時報のオトがキコエテクル。 そういえば、木の上から振られた親友の手。あれは、アレハ、ソウ、テデハなかった。 だって、カレの手はぼくの足下に落ちていた。草むらから、カレの靴をハイタ足が見えていた。そう、アレハ、アレハ、カレの、彼の、腹からタレテいた。 あの日の時報の音が私の耳に聴こえた。爆撃機の飛ぶ音と、子どもの悲鳴が、その音に、紛れていた。 (ジジッ…) (ジッ…) (ザザッ…)をお知らせいたします ただいま30秒前 (ジッ…) 20秒前 (ジッ…) 10秒前 あと(ザザッ…)秒 コァーーーーーーン (ザザッ…)をお知らせいたしました (ジジッ…) ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私の心電図モニターが、今、停止を告げた。
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