運命の掛け違いが生んだ静けさの中で

1/3
前へ
/3ページ
次へ
 昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。  ある日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に出かけました。  そうして、お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきました。  お婆さんはその大きな桃を拾い上げると、急いで家に帰りました。 「おお、なんという大きな桃じゃ」  お婆さんが大きな桃を持ち帰ると、先に帰っていたお爺さんはたいそう驚きました。 「さっそく割ってみましょう」  そう言うとお婆さんは台所へ包丁を取りに行こうとしました。  しかし、お爺さんはお婆さんを呼び止めました。 「そんなことをしとる時間はないで。はよせんとハワイ行きの飛行機に乗り遅れてしまう」  お爺さんは時計を指さして言いました。飛行機の国際線は搭乗前の手続きが煩雑です。フライトの2時間前には空港に着いていたいところでした。 「いや、でも、この桃……」  お婆さんはもったいないと言わんばかりに悲しげな声をあげてお爺さんを見つめました。  お爺さんは肩をすくめると、お婆さんを軽く抱き寄せて、おでこにキスをしました。 「お婆さんがツライのはわかるよ。でもワシだってツラいんじゃ。お婆さんがせっかく拾ってきた桃を無駄にするんじゃからの。でも、前々から楽しみにしていたハワイ旅行だったじゃろう?」  お婆さんは桃にもう一度目をやり、そしてお爺さんを見つめました。 「そうね。空港へ急ぎましょう」  お爺さんはパッと明るい顔になって、すぐさま昨日まとめておいた旅行鞄の所へ走っていきました。  お婆さんはせめて桃を冷蔵庫に、と思いましたが、すぐに諦めました。  明らかに冷蔵庫より大きな桃だったからです。 「さあ、出発じゃ」  お爺さんとお婆さんは大きなキャリーケースを引きながら空港へと向かいました。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加