どれみ姉は噂に微笑む

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「お、お邪魔しまーす……」 「も〜星矢くんったら〜。そんなに堅苦しくならなくてもいいのに〜」  恐る恐る部屋の中へと入る。ここで、よくよく考えるとどれみ姉の家に入るのってこれが初めてでは? ということに気が付いた星矢であった。「女性の部屋」に対してドキドキしているのが、どれみ姉にバレませんようにと星矢は願った。  にしても……どれみ姉の家のリビングにはぬいぐるみが沢山あった。壁の端から端に、窓際に、本棚の上に。大小様々なぬいぐるみが利口におすわりしている。丸テーブルには空色のケースのソーイングセットが置かれている。もしや、このぬいぐるみは手作りなのだろうか?  本棚には天文学や北欧神話についての本がびっしりと並べられている。……表紙を見ただけで頭がズキズキと痛み出す。読書とは、俺がこの世で一番嫌いなモノです、と星矢は心の中で呟いた。 「はい、アツアツのお茶と羊羹(ようかん)だよ〜、どうぞ召し上がれ〜」  どれみ姉がいつの間にかお茶を用意していたらしい。ソーイングセットがある丸テーブルにコトリ、コトリとお茶と羊羹が置かれた。ついでにフォークも。お茶……色合いからして緑茶であろう。緑茶、苦手なんだけど……と星矢は苦い顔をした。 「ん〜。星矢くんのもぐもぐタイムの間に、私は『作業』でもしようかな〜」  作業とはなんぞや。と星矢は声に出そうとしたが、そう思った間にどれみ姉はどこか別の部屋のドアを開けたようで。キィィ、と音がした後、姿を消してしまった。  ……星矢は羊羹やお茶に口をつける気にもならず、どれみ姉がこの部屋に戻ってくるのをしばし待つことにした。何故かは自分でも良く分からないが、正座で待機する。 ✽✽✽  まだかなー。  まだかなー。  まだかなー。  まだかなー……っ。  チックタク、チックタク。壁掛け時計の秒針の音が虚しく鳴り響く。正座のお陰で足が痺れたので、星矢はその場で立ち上がりぐぐーっと背伸びをした。  5分……経過したけど。
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