2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「……お裁縫に使うんだよ〜」
「は?」
オサイホウ? え、殺人とか誘拐の為のカッターナイフじゃないの? ……いや、これはどれみ姉の罠だ。自分を油断させた隙に殺そうとするんだ、そうだろう?
「だっ、だって裁縫するんだったら糸切りはさみや裁ちばさみがあるじゃねえか」
「失くしたんだよ〜どっちも。 新品のヤツを買いに行くのも面倒臭いから〜。渋々カッターナイフで糸を切ったり〜布を切ったりしているの〜」
そんなことある? さすがどれみ姉。考えが謎過ぎる。ってか、そもそもカッターナイフで裁縫なんて難しすぎるだろ! ……あ、そういえば、と。どれみ姉に質問したいことは色々あったが、俺は今最も重要な疑問を抱えているんだった、と星矢は思い出した。
「どれみ姉……えーと、かなり話が変わるけど……」
「ん〜?」
「これなんだが……」
そう言うと、星矢はトートバッグをつかみ取り、中からスマホを取り出した。そして例の画面をどれみ姉に見せた。
「どれみ姉……子供を殺したのか? 誘拐した、のか?」
「…………」
沈黙が流れる。けれど、その静寂を取り消すかのようにどれみ姉が「えぇ〜〜!?」と叫び出した。耳を劈くようなそれに星矢は自身の耳を塞いだ。危なかった、もう少しで鼓膜が破れるかと。
「なにそれ、濡れ衣だよ〜!」
「そ、それなら良かった……」
「その男の子を誘拐、なんてするはずが無いよ〜。星矢くん、噂には気を付けるコトだね〜」
と、どれみ姉は銀色のお洒落なフードを被りながら、あたかも彼女が犯人かのような声色で喋った。
「くっそー……噂組の奴らに騙された! 真実じゃないことで騒ぎ立てるなよな、マジで!」
「全てが誠の噂なんて存在しないんだよ? 誰かくんだって実際に騙されているもんね〜」
……それに関してはぐうの音も出ない。
「というか……羊羹食べないの〜? 私が食べちゃおうかな〜!」
「いや、頂きます!」
星矢は羊羹をフォークでぶっ刺し、羊羹を丸ごと口へ放り込んだ。恥ずかしさで味など分からなかった。羊羹を咀嚼し終わると、星矢はどれみ姉の方を向き、
「どれみ姉すみませんでした! 帰ったらすぐに噂組で伝える。『どれみ姉の噂は間違いだった』って!」
と頭が床にめり込むレベルで土下座した。
「は〜い。星矢くん、またいつでも来てね〜」
土下座を気にせずどれみ姉はいつもと変わらぬ様子で優しく微笑んだ。
「お、お邪魔しました!」
星矢は自分がどれみ姉を疑ったという罪悪感と、噂は間違いだったと一刻も早く伝えたいという謎の正義感に襲われた。星矢は酷く赤面しながら、どれみ姉宅を後にしたのであった。
最初のコメントを投稿しよう!