皮肉屋の味噌トンカツ

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皮肉屋の味噌トンカツ

 味噌仕込みから九ヶ月後、私は解禁したばかりの味噌で何を作るか考えていた。 「キャベツと豚肉で味噌炒めにするか」  困った時の味噌炒めである。味噌、酒、みりん、醤油、砂糖をそれぞれ同じ分量を混ぜ、最後に炒め合わせれば出来上がりだ。豚肉や鶏肉にもよく合うので出番が多い。 「うん。いつも通り美味しい。胡麻を振ってみても美味しいかも」  でもそろそろレパートリーを増やしたかった。 「そういえば新、元気かな」  吉田新とは大学一年の終わりにアルバイト先のレストランで知り合った、同い年の料理上手な男だ。手作り味噌をお裾分けすると約束したが、結局互いに就職活動が忙しくなり未だに果たせていない。そんな事、とっくに忘れてしまっただろうか。 「聞くだけならね」  新の一度も染めたことのないというさらさらの黒髪が思い浮かんだ。 「久しぶり。今年も味噌を作ったよ。味噌を使ったいいレシピ何か知らない? でいいか」  私が送ったメッセージは夜になっても既読にはならず、今日はもう連絡は来ないだろうと諦めた頃、電話がかかって来た。 「もしもし?」
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