皮肉屋の味噌トンカツ

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「ちゃんと覚えてるんじゃない」 『今、思い出したんだよ』  一度だけアルバイト先で知り合ったもう一人の女性と新が私の家に遊びに来た事があった。 「後で住所送っておく」 『ああ、じゃあな』  実に新らしく簡潔な電話だった。 「ちょっとは片付けておかないと」   図書館から借りた本も返す前に読まねばいけなかったが、なんだかソワソワとして全然頭に入って来なかった。 「新相手に緊張してどうすんのよ」  新の方には恋人がいるかどうか聞きそびれてしまった。 「まあいいか。いてもいなくても」  本を閉じてベッドに潜り込んだが、新の声が耳の中に残っている気がしてしばらく寝付けなかった。  土曜日はあいにくの雨で外に出る気にもならず、念入りに掃除をしていた。 「新しいハンドタオルも用意したし本でも読むか」  図書館から借りた本は返却期限を延長して貰った。ソファーに座って本を開くと、薄暗い空と室内に干された白いブラウスが妙に気になった。 「夕飯は冷凍もので済ますか」  全く集中出来ない本を閉じ、冷蔵庫を漁る。 「ラーメンで良いか」
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