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「いえ、あまり得意ではなくて。でも大学卒業したら一人暮らしするつもりなので練習中です」
私は事実を言ったのだが、炊事場でうろうろしていた私を見たシュウはそれを謙遜だと受け取った。
「じゃあ今度、練習の成果見せてよ」
「本当、下手なんで」
照れ笑いして断った事も謙虚な姿勢だと好ましく思われてしまったらしい。それ以降、直接シュウからキャンプやバーベキューの誘いが来る様になり、私も浮かれていた。
「二人で紅葉を観に高尾山でも行かない? お弁当作ってよ」と、シュウが言った時は有頂天になっていた。朝早く起きて母にお弁当を作るのを手伝ってもらい、行楽用の弁当箱に詰めた。ハンバーグや唐揚げ、卵焼きなどのおかずとおにぎりを入れ、隙間にミニトマトや枝豆を押し込んだ。母はどこか嬉しげで、出かける間際にお小遣いまでくれた。お弁当はつきっきりで教えてくれた母のおかげで美味しく出来ていたはずだ。その証拠に、いつもの母の料理と同じ味付けに仕上がっていたし、シュウも美味しいと食べてくれた。ただ、思っていたより喜んでいる様に見えなかった。
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