勘違いの恋

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「あの、美味しくなかったですか?」と、おそるおそる聞いてみた私に、 「卵焼き、甘くないんだ」と、言ったシュウの口調が異常に冷たく感じた。 「甘い卵焼きが好きなんですね。今度はそうします」と言うと、シュウはいつも通りの笑顔に戻った。並々ならぬ卵焼き愛でもあるのだろうかとその時はあまり深く考えなかった。でも、二人で出かけて食事をするたびに、シュウの食に対して異常なこだわりを感じる様になる。注意深く見ていたら、キャンプで食べるカレーも自分好みに作らせていた事が分かった。カレールーの種類も、野菜の切り方、炒め方までいちいちシュウが口を挟んでいたのを見て、ひやりと冷たいものを感じた。女子達は個人的に仲良くしていると知った私をあからさまに疎外し始めた。 「ごめんね。あの子達、僕のファンなんだ」  冗談なのか本気なのか分からない事を平気で口にした。 「でも、一緒にいたいと思うのは琴音ちゃんだけだよ」  その甘い囁きは、愚かにも私の思考を止めさせた。私はシュウの為だけに料理を作る様になった。 「このソースを使ってみてよ。そしたらもっと美味しくなるから」   ハンバーグにかけたデミグラスソースが気に入らなかったらしい。 「かけるソースまで指摘するの?」と母は訝しげだった。
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