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夏に比べると、少しだけ涼しく感じる秋の夜。
誰かに頬を撫でられた気がして目が覚める。
個室のためか物寂しい病室には、私しかいない。
窓を開けたまま寝てしまっていた事に気づき、先程のは風の仕業だと理解する。
外には満月が煌々と輝き、人々の眠りを見守る。
凪のような静けさの中、風に当たりたい気分になり、窓辺に寄る。
今日も無事に一日を乗り越えたことに安堵するも、明日のことを考えると途端に恐怖が襲う。
体が弱いために、幼い頃から入退院を繰り返す生活を送ってきた。
もう十回以上は繰り返してるはずだ。
外ではしゃぐ同世代の人を見るたびに自分の命を呪っていた―そう、一週間までは。
喉が乾いたと思い、自販機に行った時、その少年に出会った。
足が不自由なのか、車椅子に乗っていた少年は一番上にあるボタンを押そうとしていた。
しかし当然届くはずもなく、代わりにボタン押したのが始まりだった。
お礼を言われ、早々に自分のを買って立ち去ろうとした時、良かったら少し話さないかと誘われた。
その時の私は、たまには良いかと思い二つ返事で了承した。
少年は私と同年齢で、事故に遭って入院していた。死ぬかもしれないと思っていたらしく、今生きていることが本当に幸せだと言った。
羨ましい。ただ純粋にそう思った。
それから彼は毎日私の病室を訪ねてきている。
他愛もない話をして過ごすだけ。
だが、それもいつしか私の退屈な日々には欠かせないものになっていた。
今は自分の命を忌々しく思うことはないが、それでも愛しく思えるようになるのにはまだ時間がかかるだろう。
彼は明日も訪ねてくる。
寝坊しないようにもう寝ようと思い、窓を閉めてベッドに戻る。
どうかこの命が少しでも長く続いてほしい。
静寂と微睡みの中、私は生に焦がれる。
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