主神の祝福

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 口付けが唇を塞ぎ、舌が熱と潤いを伴って口内に侵入して来る。  女のような顔をしているのに、入ってくる濡れた肉は男らしい厚みがあり、その動きも一方的な愛撫を与えようとする雄のものだ。  娼婦とする柔らかいキスとは違う強引さに、思わず息が上がる。  最近は忙しくて抜いてもいなかったせいで、ねちっこく舌を吸われると下半身の熱が煽られるのが嫌でも分かった。  主導権を奪われるようで癪に障り、自分からも相手の髪を掴んで激しく舌を絡める。  強い腕がヴィクトルの背中を撫で、腰をきつく抱いた。  確かに口付けながら両腕で抱かれているのに、別の「手」が伸びて軍服のホックが器用に外されてゆく。  ぎょっと目蓋を開けて見おろすと、白く細い何本もの触手が軍服の隙間に入り始めていた。 「クソ、ずるいぞお前……」  唇を離して荒く呼吸しつつ眉を顰める。 「……お前はその二本の手で私を脱がせればいい」  こちらは血流が早まって色々な所が熱くなり始めているのに、相手は余裕の笑みを浮かべていた。  宝石のブローチで留めてある相手のローブを掴んで引く。  それを床に落とし、素晴らしい金の刺繍の入った赤い上衣(コート)の腕を引いて脱がせた。  シャツと細身のキュロットだけになった神の姿に目を見張る。  驚くべき事に、薄い絹の下に透けているのは、肌を埋め尽くすばかりの美しい紋様だった。しかも刺青と違い、その線の一つ一つは青く光を放ち、まるで生きているかのように肌の上を自在に動いている。  その紋のうち、連なるように縦横に描かれた鎖のような絵柄の一つ一つの網目の中から大小の触手が出入りし、シャツの下をくぐって自由に動いている事に気付いた。 「私の姿が恐ろしいか? ――私の外見は、この紋様の力で形を整えた、仮初めの容れ物のようなもの。私の本質はこちらなのだ……お前がアミュと呼んでくれたあの姿に近い」  ヴィクトルは驚きと興味に目を細めながら、首を振った。 「俺はどっちか言うとあっちのあんたの方が可愛いと思う方だからな」 「それは良かった……」  バアルが安心したように微笑み、同時に彼のシャツが引きちぎれるほどの数の触手が光る鎖模様の中から飛び出す。  その手に髪を梳かれ、頬を撫でられ、ベルトを剥ぎ取られていく。  肌に触れるそれには人と同じ程度の体温があり、極上の女の肌のような吸い付くような感触がある。  まるで生きた縄に服の下から少しずつ身体を縛られて行くようだ――。  優しげにバアルが微笑み、青く発光する裸の腕でヴィクトルの胴を軽々と持ち上げた。  抵抗して身をよじるが、いつのまにか全身を隙間なく這った触手に捕らえられ、動くことすらままならない。 「おい、ちょっ、」  気付けば天蓋付きのベッドの上に連れ込まれ、シーツの上に優しく背中を倒されていた。  相手は紫の瞳で上から自分を覗き込み、慈愛に満ちた仕草で髪を撫でている――ただし、触手で。  それに少しずつ違和感を感じなくなってきていることに気付き、震撼した。  同時に、肌の上を這う無数の滑らかな腕の締め付けや、縛られる不自由さまでもを心地いいと自分が感じ始めていることに気付き、愕然とする。  神の血を流されて正気を失ったギレスや、周囲が見えなくなるほど快楽に溺れさせられていたレオンの姿が脳裏に思い浮かんだ。 「お前、俺に神の血を使ったのか……?」 「……? いや、そんなものは使っていない。お前には効かなかったし……」  低く甘い囁きが耳元で響く。まるで、神殿の中にいる時のようにその声は木霊して、脳を心地よく侵すようだ。  肌の上に張り巡らされた触手が、ギュゥ……っと絶妙な力加減でヴィクトルの身体中を抱き締めた。 「……っく……っ、……っ!」  締め付けに甘い興奮が湧き、肌が粟立つ。  縛められて感じるなんて――そんな経験は一度たりとも無い筈なのに。  長く伸びる触手の先が、軍服のズボンの下にも侵入し、下着の中までもゆっくりと這って行く。 「ここがお前の秘密……」  陰嚢の根元が柔らかく縛られ、ぐるりと螺旋状に昇った細い触手が雄を抱き締めてきた。  形状を確かめるようにニュルッニュルッと触手がそこに這い、うっとりとバアルが呟く。 「美しい形だ……」  敏感な粘膜を責められる堪らない感触に襲われ、ヴィクトルは思わず相手に抗議した。 「っおい、服着せたままするのが趣味なのか……っ? 軍服汚すのはっ……、勘弁してくれ……っ」 「大丈夫だ、お前の体液は……これで、全て私が吸うから……」  開いたホックとシャツの下で胸を抱きしめていた触手がひょいと顔を出し、目の前でぱっくりと二つに割れる。  その内側にはまるで獣の口腔のように赤く濡れた中身と、小さな歯と舌が見えた。 「それがあんたの本物の口って訳か……」  驚き呆れながら呟くと、バアルが淫蕩に目元を染めて笑う。 「お前が嫌でなければ、身体中の感じる場所を全部同時に舐めてやれるぞ……」  ヴィクトルの胴を這う触手の先端が次々に割れ、褐色の肌に濡れた舌を這わせ始めた。  触れるその粘膜はザラザラとして、人間というよりも獣のそれだ。 「あぁ……汗を掻いているな……とても甘い……」 「はぁあっ……っ、ばか、変なとこ舐めんな……っ、ウあ……っ」  腋の下の毛の根本を何度も吸われ、汗をしつこく舐めとられる。  首筋も這い回られてゾクゾクと下半身に伝う性感が益々肌を敏感にし、蠢く触手の合間にあった二つの胸の突起がプツリと勃ちあがった。  目敏い触手にそれが見つかり、そこだけ色が薄くなった二つの小さな乳頭が含んで吸い上げられる。 「くぅ……っ!」 「ぁあ、すぐに硬くなって……なんて愛おしい形になることか……このまま、食べてしまいたい……」 「ぅあ……っ、食うな、っ、あふ……っ、」  両方の乳首を猫のようにザラザラした小さな舌で舐り回され、伸びるくらい吸われて、そこから伝わる甘い電流で痛いほどペニスが充血した。 「おや? ここの形が変わったな……お前の美しい男の証は、胸を吸われるのが好きなようだ……」  バアルが目を輝かせながら体の位置をずらし、触手の先で器用にヴィクトルの青いズボンの前立てを開き始める。
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