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「もうお前は、私のものだな……」
頭に靄がかかったようで、背後から嬉しそうに言われた言葉を否定できない。
「ンん……っ、はぁっ……」
快楽に溺れ、もう一度深い絶頂を求めるように宙に浮かせられた身を捩っていると、神の腕に抱られていたヴィクトルの両膝が触手の上に渡された。
後ろに尻を突き出して空中にしゃがんだような不安定な体勢になり、どうすることも出来ずに背後を振り返る。
神は華やかな笑みで視線に応えると、背後からヴィクトルの大きく成長した乳首に触れ、優しく摘まんだ。
「ァ……っ、ふ……っ、そこ……は……っ」
「お前も淫らに成長した身体を楽しんでいるようだな……良いことだ」
鏡の中でゆるく腰を打ちつけている神が満足気に瞳を細める。
飛び出した乳頭を弾けるほど指先で捏ね回されながら、耳元で悪戯っぽく囁かれた。
「――私は、お前がもっと楽しめるようにと思って、この部屋に仕掛けをしておいたのだよ……存分に、楽しむがいい……」
神の触手の一つが伸び、目の前の鏡に触れる。
すると不思議なことに、触れられた場所を中心に水にしずくが落ちたように大きな波紋が鏡面に拡がっていき、急に自分の姿がそこに映らなくなった。
代わりに四面の鏡の壁に映っているのは、篝火を焚いた神殿の扉口と、その前を行き交う人々だ。
先ほどまでアビゴールが立って儀式が行われていた場所では、青い軍服を着た同僚――エリクとフレディが座り込み、木製のゴブレットで酒を飲んでいるのが見える。
「っひ……!」
一気に正気が戻って来て、ヴィクトルは宙に浮いたまま必死でバアルの方へ首を向けた。
「おいっ、これはっ……」
「ふふ。この鏡は遠見の鏡といって、私たちの覗き見用兼移動手段なのだよ……あちらからこちらが見えることはない」
貫かれたままじっとりと汗が流れ、周囲を見回す。
どういう仕掛けか、この四角い部屋は、神殿の前の広場の中央辺りからの景色を映しているようだ。
ちょうど、踊りの中心の大きな焚き火が焚かれていた辺りに透明な箱を置き、中から外を覗いたかのような――。
見えないと言われても、外の人々の話し声や笑い声、音楽も、まるで壁一枚すらも無いように空気に響いてくるし、吹く風も鏡を通して身体に当たる。
しかも、人々の視線は皆じっとこちらを見ている。
彼らの顔は炎に照らされているように見えた。
確かにこの場所に火があるのに、同時にこの部屋も同じ場所に存在しているかのようだ。彼らはただ火に当たっているのだろうが、まるで自分のこの有様を無数の目に見られているかのように思える。
「本当に見られた方が楽しいなら、向こうからこちらを見えるようにする事も出来るが、どうする……」
「んなことしやがったら殺すぞ、このっ、変態趣味のクソ野郎……っ、っぅあ……っ!」
罵ると益々自分を貫くものが太く硬くなり、甘く痺れたような快楽がジンと下腹に響く。
「この鏡は音は通すのだ……気をつけた方が良い」
ハッとして鏡の向こうを見ると、怪訝そうな顔をしている人々の表情が見えた。
「今、このでっかい炎の中から声が聞こえなかったか……?」
「まさか、人が焼かれてる……?」
「ちょっと、兵隊さん呼んでこようぜ」
(……!)
階段の方で仕事をサボっていたエリク達が呼ばれ、こちらへやってくるのが見える。
「っ……、離せ……、抜け……っ!!」
掠れた小声で懸命に背後の神に訴える。
けれど、彼は愛おしそうにヴィクトルの乳首を乳輪ごと摘み上げて乳首の先を愛撫し、むしろ腰の動きを早めてきた。
「んぐ……! はァっ、あっ……、頼む、んぁ……っ!」
わざと声を出させようとしているのか、ジュブッジュブッと奥の感じる場所を徹底的に責められる。
せめて自分の口を塞ぎたいが、触手に後ろ手に囚われているままでは動かす事も出来ない。
目の前にはエリクとフレディが迫り、二、三歩前に進めばぶつかりそうな距離に立った。
面倒そうな顔でこちらを見てくる視線に堪えられず、首を横に避ける。
途端、空中からすとんと長靴を履いたままの脚を毛足の深い絨毯の上に降ろされ、両手を縛められたまま鏡に向かって前傾する恥辱の姿勢を取らされた。
後ろに突き出した尻を触手の表面で撫で回しながら、バアルが薄く笑う。
「あぁ、この者達はお前の仲間だったな……。お前が私に愛されながら悦びイキ狂う姿を見せつけてやるのも一興か……?」
言葉と共に、全ての触手がヴィクトルを責める為に動き始める。
髪を撫で梳き、うなじを舐め上げ、脇を這い回り、乳首を舐り回し、臍のくぼみに吸い付きーーそして穴という穴の中で、バアルが蠢き、柔肉を擦り始めた。
「やっ、やめろ、ふぁっ、ぁアっ、声がっ、んぁっ」
後ろと前を同時に深く犯される衝撃で、声を抑える事も出来ない。
目の前の二人が眉をしかめ、首を傾げながら顔を見合わせている。
「今、ヴィクトルの声が聞こえたか?」
「しかもやけに色っぽいような……」
「でも、見当たらないよなあ?――」
冷たい汗が噴き出し、喉から甘い呻きを漏らしながら唇を噛む。
「声を出したくないのなら、私がお前のよがり声を抑えてやろうか……?」
パンパンと肌の弾ける高い音を立てながらバアルが提案し、思わずヴィクトルは何度も首を縦に振った。
ふっと美しい唇が笑み、上半身がぐっと引上げられる。
触手を口に入れられるのかと思ったが、顔を振り向かされた後で唇を塞いだのは慈愛に満ちたキスだった。
その柔らかさに訳の分からない安堵感が湧き、同時に緩んだ身体も絶頂に達してしまう。
「ンん……っ、ふぅ……っ」
それでも快楽の中枢を前と後ろから同時に突かれ続けるので、キスを止めることが出来ない。
自分から貪るように接吻を求め続け、ヴィクトルは気を失うまで全身を犯され続けた。
数日後。
祭は無事に終わり、賑わっていた王都はすっかり平時に戻ったかに見えた。
しかし――。
「おい、こいつの引っぺがし方を教えてくれ。あんた、以前追い返したことがあるんだろ!?」
オスカー・フォン・タールベルク伯爵の執務室に、怒声が響く。
普段は本人と総長レオンの他には誰も入ることを許されないその部屋には、強硬に侵入したヴィクトルの姿があった。
青い軍服を着た長身の背中には、白いタコのような生物がしっかりと貼り付いている。
「みゅっ」
子供のような高い鳴き声を上げ、アミュが肩口から美しい紫色の瞳を覗かせた。
書類の山に埋もれた金髪の貴公子は、そんな一人と一匹を見て屈託の無い笑顔を浮かべている。
「……すまないがその生き物は、私にはどうすることも出来ないものだ。『息子の気持ちが分かった、私もこの人間が気に入ったのでしばらくこの世界に留まる』と言っているものでな」
「な……んだとぉ……!?」
ヴィクトルは琥珀色の目を剥き、執務室に座るオスカーの白い軍服の襟首を掴み上げた。
「バカヤローっ、お前のオヤジだろうが!? 責任とれよ!!」
「さて、私は忙しい。アミュ、その男はお前にやるから連れて行け。ヴィクトル、お前はそう気を落とすな。そいつはお前の会いたかった母親の代わりにはなれないが、ペットの代わりぐらいにはなるだろうからな」
「みゅっ」
背中が空中で引っ張られ、すっかり居着いてしまった奇妙な生物にズルズルと執務室を連れ出される。
この国の神になにかを期待した自分が馬鹿だった――と言うことを改めて思い知らされ、最悪の気分だ。
バタンと目の前でレリーフの施された立派な扉が閉まり、廊下に投げ出されたヴィクトルの頭を、そっと触手が撫でてきた。
「みゅ?」
その健気な瞳を見ると、あれだけの目に遭ったのに、何だか憎めないような気分になってしまう。
頼みを断られたのに何故かほっとしたような気持ちになっていることに気付いて、ぶるっと首を振った。
「ちっきしょう……。大体お前、約束が違うじゃねえか!? 望み聞いたら帰るはずだろうがっ」
どれだけ恫喝しても、相手は背中にしがみついてフルフルと首を振るばかりだ。
ため息をつきながら、せめてもの嫌味を言い放つ。
「――俺はもう今回の件で完っ全に一神教に改宗したからな。お前なんて今日から悪魔だ。俺に向かって神を名乗るんじゃねえ」
「あみゅ!」
了解した、とでも言わんばかりにアミュが腕を一本挙げる。
その悪びれなさに呆れつつ、なぜか唇の端に笑みが浮かぶ。
――全く、この国の神にはうんざりだ。
嬉々として腕にしがみつく白い悪魔を肩に乗せ、ヴィクトルは歩き始めた。
「仕方ねぇな。――仕事行くぞ」
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