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鉄道の駅から町へは歩きでは疲れるくらいの距離があり、定期的に乗合馬車が運行していた。
とは言え、都会のタクシーやバスのように頻繁に回ってくる訳ではない。日に二回の列車の到着時刻に合わせて、二回の往復をするだけだ。
ジェイクは列車から降りて改札で切符を渡し、駅員に駅馬車の停留所の場所を聞いた。教えられた通り駅舎を出て左方向に向かっていくと、馬車は既に停留所で待機していた。列車に乗る客を降ろし、今度は列車から降りた客を乗せるのだ。三頭立ての馬車で、御者は呑気に欠伸をしていた。それを見て田舎の雰囲気をまず初めに感じたジェイクは、和やかな気分でもらい欠伸をして、ふと馬の方に視線を移す。
そして一番左側の馬と目が合ったのだ。
その馬は狂気を思わせる程に目を剥いていて、ジェイクの顔を見るなりヒーッといななき前脚をばたつかせた。その馬の顔は今にも食われるかと思うくらいの迫力だった。ジェイクがその様子に怯んでいると、御者がドウドウと手綱を動かした。他の二頭もつられるように騒ぎはじめたので、それが落ち着くまで数十秒が必要だった。
「おはようございます、旦那」
馬が静まると、御者は憐れむような調子で挨拶をした。
ジェイクは落としそうになった鞄と帽子を持ち直して、御者に挨拶を返した。
「やあ、どうも。馬を驚かせてしまってすまないね」
「いやいや。貨物の馬車に興奮したんでさ。ニンジンの匂いでも嗅ぎ取ったんでしょう。乗りますかい?」
「うん、頼むよ」
「前払いでお願いしやす」
ジェイクは丁度の金額を硬貨で手渡し、馬車に乗り込んだ。
帽子をもう一度、きちんとかぶり直す。
幌の閉じられた車で十人ほどが乗れそうだったが、ジェイク以外に客はなかった。
御者が聞いた。
「他に降りた客はいましたかい?」
「どうだろう。貨物車では人が出入りしていたけど、客車から出たのは私一人のようだったよ」
「そうですかい。じゃあ、後五分待ちやしょう」
「利用客はいつもこんなに少ないのかい?」
「まあ、朝なら多くても三人くらいかな。夕方はそれなりにいますよ」
「そうかい」
乗合馬車は五分後、ジェイクと御者だけを乗せて出発した。
ジェイクは馬の機嫌を損ねないように、その顔をぶしつけに覗かないよう心掛けた。
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