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 州が用意してくれた診療所に到着すると、まずその施設の点検をした。  話し通りに掃除は行き届き、清潔感があって一安心する。  ジェイクは、過疎地等の民間医療施設のない土地に派遣される遠隔地定期巡回医療制度で、州からの指示を受けてきた医師だった。  基本的には二十代から三十代の若い医師が登録され、研修や勤務地の検討を兼ねて二、三年周期で各地を回っていく。三回の転地を終えれば、その後自由に職場を探せるが、若いうちは奉仕したいと四十になるまで登録しているものもいるし、転勤が楽しみになってそのまま制度を離れようとしない老医師も偶にいる。だが、ジェイクは若い方だ。  州からの通達では転出の際の施設の修理、清掃は手を抜かないようにとの事だったが、医師会の仲間からは、どこの診療所も古くて、前任者がいい加減な人間だったら一週間は施設の手直しに時間を取られる。と、いう話を吹き込まれていたので、初めての赴任地であるここに来るまで、それが一番の気がかりだった。  なんだ、話ほどでもない。これなら、今から患者が来ても大丈夫だな。  診療所を出た。  診療所の庭には手入れは良くないが芝生が敷き詰められてある。敷地の境界に囲いや塀はなく、通りからの見渡しは抜群だ。誰かがロビーで欠伸をしているのも外から見えるだろう。植木は建物の裏手に二つと表に一つあった。どちらも背が高い木で、裏手のものは洗濯物を干すために利用され、表のものは馬を繋ぐために利用されているようだった。  ジェイクはその質素だが広い敷地に建っている別棟の住居へ向かった。  そこで、仲間の話も半分当たっていたことを思い知らされる。居住スペースは散らかり放題だった。
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