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「まだ駄目か」
「はい。申し訳ございません……」
無機質なコンクリート製の建物。その建物の奥まったところに、ひっそりとその部屋は存在していた。
外見からは考えられないほど上質な家具が揃えられた部屋。蛍光灯に照らされた空間は、無性に広く感じる。壁にかけられた時計は短針と長針を重ね、重い空気の隅で、隠れるように密かに正午を告げていた。
その部屋の中心に、二人の人物が向かい合って立っていた。一人は俯き、一人は温度の無い無表情で。二人は机を間に挟み、互いに椅子に座らずにいる。まるで、部屋に満ちる重い空気が二人の間に分厚い壁を作っているかのようだった。
無表情の人物が、事務的に問う。
「何か他に言いたいことはあるか」
「あの、では、これを……。やはり、生活しにくいので」
俯いていた人物はさらに目線を下げた。気まずそうに左足の爪先で右足をつつく。
「……まあ、いいだろう。生活態度も悪くないしな。明日、やってやる」
その様子をじっと見ていたもう一人は、やはり表情を変えずに抑揚無く答えた。その態度はまるで作られた機械のようだ。
しかし、答えられた方はまるでその態度を気にすることなく俯いていた顔をあげ、安堵のような喜びのような感情を込めた息を吐いた。
「ありがとうございます」
「じゃあ、俺は帰る」
礼を言って頭を下げた一人を見下ろした後、一人は特に反応することなく部屋から出る。
「ふぅ……」
残った一人は小さくため息をつき、口元に弧を描いた。
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