月の道、途切れて

3/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
**  小吉の命が尽きたならば、わたしがこうしてついているわけがありません。  海の中にまで、わたしは一緒についてゆきました。月の光は海の中に差し込み、淡く儚く揺れています。  小吉は月照を抱きしめており、月照もまた、小吉の腕にしがみついています。  憎らしいほど不安定な月の道は、二人に近づいては遠ざかり、輝いては消えます。やっとのことで光る道が逆さに落ちて漂う二人の上にきた時、最初に踏み出したのは月照でした。  月照は女のように美しい白い顔で小吉を振り向いて、誘うように手を伸ばします。  小吉もまた、大きな手を伸ばして白い優雅な手を掴もうとしました。  ですが、この瞬間、どういうわけか、月照は目を見開きました。  その視線の先には確かにわたしがおりまして、月照は死の間際に、小吉についているわたしの存在を知ったのです。    月照は愕然としてわたしを見つめました。何故か、絶望や、嫉妬や、悲しみのようなものがありました。  むろん、小吉は月照の心の変化など知る由もなく、遠のく月照の手を追おうとしています。  まだ、沿う気なのか、最後まで。  月照は、そう呟いたようです。  狂気のような嫉妬のため、美しい顔を瞬時に歪めましたが、すぐにそれは穏やかな諦めとなりました。  月照は改めて、自分を追い求める小吉にまなざしを戻すと、心から愛おし気に微笑み、優雅な指で、小吉の手をゆっくりと引き離したのでした。  闇の花は唐突に散り始め、海の闇に溶けて消えます。  永遠のような安らぎはたちまち失われます。  月の道は今や途切れ、月照は光り輝く世界へ歩き出し、小吉は暗く冷たく過酷な場所に取り残されました。  つまり、わたしの存在が、小吉が唯一望んだもの、もう少しで手に入るところだったものを、喪失させたのでした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!