月の道、途切れて

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**  「おいは一人じゃなか」    奄美大島に向かう船の中で、小吉は心の中で何度も呟きました。  月の光がどんなに明るくても、船の中にまでは届きません。  ですから、小吉はわたしの姿が感じられないのです。  それでも、わたしは小吉の背中を抱きしめておりましたし、小吉もまた、そこにわたしがいるということを信じようとしていました。  「おいは、一人じゃなか」  生きている限り、側についているものがいる。  そのことが小吉の病んだ心を、少しでも慰めたのだとしたら、多分、それがわたしの「役目」なのだろうと思うのです。
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