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「お前は罪を犯した人間であっても助けようとした。その人の心の痛みに寄り添ってなんとか救おうとした。それは危険因子をただ取り除くよりもはるかに難しい道なんだ」
自分の顎が震えて、歯がかたかたと音を立てた。
「人を疑って排除するより、人を信じる方が遥かに難しい。それでもお前はその険しい道を選んだ。それは決して間違いじゃない」
一陣の風が吹いて、ロイが吸っている煙草の青白い煙が目に入った。その煙が妙に目に染みた。
「ヴァン、その優しさを失くすなよ。お前のその優しさは刑事である前に、警察官である前に、何より人として大切なことだ。だから、失くさないようにしろよ」
言い終わると、ロイは吸殻を携帯灰皿に入れた。
「班長と課長には俺から連絡しておく。病院、早く行けよ」
そう言ってロイは踵を返して去っていった。
――刑事さん、俺なんかのためにありがとう。
検察庁に送致される直前にデクスターが言った言葉が蘇った。
「ああ、ああ」
咽びを上げながら、その場でしゃがみ込んだ。
嗚咽と涙は止まらなかった。罪を犯した人間にやり直す機会を与えず、ただ社会から排除する。その在り方への怒りと、その在り方こそが今の平和を維持しているという事実がいつまでも自分の中で反目し続けていた。
目頭から溢れかえった涙をそのままにして空を見上げた。四月の空はどこまでも突き抜けるように青く、澄み切っていた。
(完)
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