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 その五階建ての建物は古臭かった。グレーの塗装が施されており、鉄筋コンクリートで造られていることが一目でわかるようなデザインになっている。古臭いと感じたのは、その塗装のそこかしこが剥げかかっていたからだ。  部屋同士を隔てる壁を象徴するかのように鉄筋の柱が壁から張り出しており、窓の外では羽根のついた室外機が鈍い音を立てて回っている。各部屋の窓にはブラインドが降りていた。  左手首に着けている時計に目を落とした。時計の針は八時十五分を指している。  ふっと息を吐いた。緊張で高まっている心を抑えたかったからだ。いくら古臭い建物とはいえ、ここで働くことを望んだのは自分自身だ。首都オルディス州の警察であるオルディス警視庁の警察官になると決めたのは七年前、大学三年生のときだった。その後、オルディス州司法職員第一種試験の勉強をして、試験を受けた。  第一種試験に受かった後は、教場(きょうじょう)で二年に渡る司法職員候補生訓練を受けた。そしてバギーレイク署防犯課地域係での三年に渡る交番勤務を経て、この春、ようやく異動の内示が出たのだ。
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