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 教官はそう言うと、講義室内をぐるりと見渡した。その視線が前から二列目、右側の通路のすぐ隣に座っていた自分のところで止まった。 「ヴァン・クレイグ巡査」  呼ばれたのは自分の名前だった。 「はいっ」  叫びながら勢いよく立ちあがった。 「教壇まで来なさい」 「はいっ」  何が始まるのか、そんな不安と興味を抱えながら教官の元へ歩み寄った。講義室にいる他の同期生たちは皆、自分に視線を注いでいる。 「そこへ立て」  命令を聞きながら、教官と相対した。五十過ぎくらいの(いか)つい顔つきをした男だ。マフィアや犯罪組織を専門に取り扱う組織犯罪対策課などにいそうだった。  彼が顔の前に手を掲げた。掌がこちらを向いている。 「この手を思い切り殴れ」  予想だにしない言葉だった。教官に向かって拳を振り上げろ、と言われてもさすがに躊躇してしまう。 「ですが」  たじろぎながら言葉を返した。 「気にするな、これはデモンストレーションだ、やってみれば分かる」  教官はまるで意に介さないように言い放った。
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