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 ここだ。そう思った瞬間、鼓動が高鳴った。気持ちを落ち着けようと軽く喉を鳴らし、二度ほど息を長く吐いた。ネクタイは曲がっていないだろうか、そんな不安で手が首元に伸びる。  少しの間、扉の前でネクタイの結び目を(いじ)ってからもう一度息を吐いた。第一印象が肝心だ。そう自分に言い聞かせてから扉を二度ノックした。  何も返って来なかった。入ろう、そう決めて銀色のドアノブを回して扉を押した。 「おはようございます、本日付けでバギーレイク署防犯課地域係から刑事課強行犯係に異動してまいりました、ヴァン・クレイグと申します、どうぞよろしくお願いいたします」  がばっと頭を下げながら叫んだ。歓迎とは言わないまでも、誰かの迎え入れるような声は来るだろう、そう思っていた。しかし、その期待はあえなく打ち砕かれた。自分の耳に届くのはただ沈黙だけだったからだ。  恐る恐る頭を上げた。その大部屋はがらんとしていた。二つずつ向かい合うように置かれたデスクが三つ続き、その一番奥に入り口を向いたデスクが置かれている。いわゆる島だった。
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