最高のスパイスの代償

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 四限目の英語の授業は静寂だった。  ペンを走らせる音、教科書やノートをめくる音が、小鳥のさえずりよろしく耳をくすぐる。  先生が立っているはずの教壇には、先生はいない。黒板に書かれた『自習』という文字が、その不在理由を示していた。  しかしながら、僕のクラスはみな真面目な連中らしい。おしゃべりやおふざけもせず、黙々と勉学に励んでいる。  しょうがないので、僕も彼らに倣うことにした。問題集を開き、英語から日本語に訳したり、日本語から英文を作ったりする。つくづく無為な時間なような気がしてきた。こんなのパソコンで翻訳サイトに入力すれば、一瞬で解答を導きだすだろうに。僕は首を左右に動かし、凝り固まった肩をほぐした。  くうー。  そうしていると、子犬が鳴くような音が突然、僕の耳に割りこんできた。  黒板の上にある時計の針は、十二時を指そうとしている。だれかの腹の虫が騒ぎだしたようだ。無理もない。僕も少しお腹が空きだしていた。  ぐぅうううううううー。ぐるるるるるるるー。  次の瞬間、まるで猛犬の唸り声のような音が、静寂にナイフを入れた。
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