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その後の数日間は、お兄さんとレジで会っても数字のことを何も言わずにいた。迷惑をかけないようにと遠慮しているけれど、その度に、お兄さんが私に数列のことで声をかけてくれないかと期待してしまう自分もいる。
だけど私たちはあくまで、コンビニ店員とお客さん。本当ならお仕事以上の会話をする機会なんてない。今までが特別で、運が良かっただけだ。
お兄さん以外には、変わらず女子高生たちも四人中三人のローテションでお昼どきにやってくる。コンビニのお弁当を買っていったり、アイスだけを買っていったり、時々ジュースを買っていったりした。
11100
12011
22112
32123
33233
43343
「うわぁ……」
──そうこうしている間に、数列は六列目を突破してしまった。これがもし一週間のシフトだったりしたら、もうあと一日を残すだけだ。
だけど私の予想に反して、そのあとしばらく数字は増えなかった。いつもなら数日に一度は増えていた数列が、ぱったりと途切れてしまったのだ。
その数列に呼応するように、お昼時の客足がある日からぱったりと途絶えた。えくぼがかっこかわいいお兄さんも、三人でくる女子高生も、タバコを買いに来るガテン系のおじさんも、学者風の先生らしき人もだ。
「お盆はさすがに暇だねえ」
今日はシフトが一緒な店長が、しみじみ言う。
あ、そうか。いまはお盆の時期か……。
コンビニにお盆休みはないし、住んでいる家が実家の私には、帰省先もない。いつもは目が回るほどの忙しいはずのこの時間、がらんどうなコンビニを見回すとなんだかそわそわした。
「はやく、お盆が終わってくれないかな……」
「え……?」
店長がドン引きして私の方を青い顔で見た。
「い、いいえいえいえ! 混まない方がいいに決まってますよね!」
そうだ。お給料は変わらないんだから忙しくない方がいいに決まっている。
何を考えているんだ私は。
お盆に入った瞬間にあの数列も途切れたってことは、お客さんの中にコンビニ強盗を計画している人がいるってことだろうか。
数字を使った強盗?
それともスパイの暗号的な……?
そうなってくると、数字に強い人が作った数列かもしれない。
まさか。
いやいや、ありえない。
いくらお兄さんが理系だったとしても、まさかコンビニの駐車場で堂々と数式を書くなんてこと、しないよね。
お兄さんが犯人なわけじゃ、ないよね?
「……」
もうお兄さんと数列の話はしないほうがいいんだろうか……。
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