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不安が広がっているうちにお盆も終わり、いつもの忙しさがまた戻ってきた。
部活に励む女子校生・四分の三人組、ガテン系のおじさん、学者風の眼鏡先生、そしてピークの最後にはかっこかわいいお兄さん。
「のり弁当温めお待たせしましたー」
「ありがとうございます。──あれから数字は六列になったみたいですね」
もう決してお兄さんには話題にしまいと思っていた数字の羅列のことを、相手から振られてしまった。
「あ、はい。でも、今は止まっているんです。犯人もお盆休みだったんですかね。あははは」
「犯人……ああ、コンビニ強盗の話ですか。大丈夫ですよ、たぶん数字の羅列はもう増えませんから」
コンビニ袋を受け取ったお兄さんが言った。
待って、いま、なんて?
「え、どういうことですか? お兄さん、もしかして数字の羅列のナゾを解いたんですか?」
「いえ、ナゾというほどのことでもありません」
「え、え、私わかんないです。不安でたまらないんです、ここ数日」
「それは困りましたね」
お兄さんは苦笑すると、「うーん」と唸って本を脇に挟み、スマホを取り出して画面をチラリと見た。
「今日は金曜日でしたね。店員さん、明日はお時間あります?」
「えっ」
まって。唐突すぎる。唐突すぎる、唐突すぎる!
「あ、空いてますっ!」
お兄さんがえくぼを作った。
「じゃあ、十二時にコンビニの駐車場で待ち合わせましょう」
「はい!」
あとで店長に土下座して明日のシフト変えてもらおう!
*
待ち合わせ前日の夜はそわそわそして、うまく寝付けなかった。壁にかけている時計の秒針がじりじりと、少しずつ進んでいくんを漫然と眺める。
早く明日の十二時になれ!
そう思ってゴロゴロすること数時間。
夜中の一時ごろになるとお母さんが、夏場に開けっ放しにしていたドアの先から顔を覗かせてきた。
「もう! あかりったら、夜寝るときは電気を最後まで消しなさいって言ってるでしょうが。電気代がもったいない!」
「だって……暗いの怖いから。お化けとかさ」
「まぁた、あんたはそういうこと言って……。いいから早く寝なさいよ」
「はあい」
大学二年生にもなってお化けが怖いなんて言ったら、周りには笑われるかもしれない。
正確に言うと、私は『得体の知れないもの』が怖いんだ。
今日寝られないのは、暗い空間やお化け以上に、あの数字の意味がわからないのが、怖いからだ。
「はあ……」
結局、夜もろくに寝ないでスマートフォンをなんとなくいじり、六時に起きた。寝たのは三時前だから、ほとんど睡眠がとれていない……。
でも、今日はお兄さんに会えるんだからいつまでもうじうじしている訳にはいかない。
クローゼットを開いて、数あるワンピースの中から一番可愛い一枚を引っ張り出す。
メイクも一時間くらいかけた。
「……はっ!」
そういえば、いつもコンビニだからといって適当なメイクで済ませていたけれど……!?
「ひぃいい! 今までほぼすっぴんのままでお兄さんと顔を合わせてたってことぉ!?」
「あかり! 朝からうるさい!」
今日会ったとき、メイク気張ってやんのこいつ、とか思われたら、どうしよう……!
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