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すぐに炎天下の中へ舞い戻った私たちは、信号を渡って道路の向かいのコンビニについた時、ちょうど例の女子高生三人組と鉢合わせた。
「あ、いつもバイトしてるおねーさんじゃーん」
びっくりした。今日はワンピース姿だったのに、この子たちは私の顔を覚えていたんだ。
「やあ、ちょっといいですか」と、お兄さん。
「やだお兄さん、ナンパ?」
「きゃーイケメーン」
私の横にいたお兄さんがやんわりと声をかけると、女子高生たちが群がった。お兄さん、やっぱりイケメンなんだなぁ。
「なになに、お兄さんもしかして店員さんの彼氏ぃ?」
「違いますよ」
「あ……う」
違いますよ、か……。
そうだよね。会ったばっかりだし。
お兄さんは、女子高生の一人の提げているレジ袋を指した。
「きみたちが買っていったそのポール・ナッツですが、ずばり。味はストロベリーと、バニラと、キャラメルですね?」
高校生三人組は、お兄さんの指摘に一瞬シンと静まり返った。そして後から言っていることを理解したのか、
「えぇえええええ!」
と驚きの大合唱になる。
「すごーーい!」
「お兄さんなんでわかったの!?」
「エスパー!?」
女子高生の一人、ポニーテールの子がビニール袋の中身を取り出した。
ストロベリーに、バニラに、キャラメル。
すごい、本当に中身を言い当てた!
「暑いなか引き止めてすみません、それだけ確認したかったんです」
一度は微笑んだお兄さんは、何かを思い出したかのように再び口を引き締める。
「それと、このなかでラベンダー柄の手帳を使っているのはどなたですか?」
瞬間、女子高生三人は示し合わせたようにカチコチに固まった。
「え、お兄さんなんでそれ知ってるんですか……?」
女子高生たちは警戒心マックスだ。
「あなたのうちどなたかがコンビニで落とした手帳を、私が拾って預けたからですよ」
「え!?」
お兄さんが苦笑しながら弁明すると、ショートボブの子が目を輝かせた。
「お兄さんが拾ってくれたんですか!」
「はい。まだ見つかっていないなら、そこの店舗にあるはずですが」
「ありがとうございます!」
ショートボブの子は涙目になりながら、コンビニに引き返していった。周りの子達も「よかったじゃんユウ!」と口々に言いながら店舗にとんぼ返りしていく。
私がこの状況についていけずにいると、お兄さんはやっとこちらを向いた。
「あの子たちが手帳を取り戻している間に、駐車場へ行ってみましょうか」
二人であの数列が書かれているところへ向かった。何をするかと思えば、お兄さんは縁石のかけらを手にとる。
「この数列、私が最後に書き加えるとしたら、こうなります」
お兄さんは、六つの数列の下に、がりがりと数字を加えていく。
11100
12011
22112
32123
33233
43343
44444
「あれ、4が五つ揃った」
「ええ。この数列を書いた〝犯人〟にとって、このゾロ目がゴールなんです」
シュウさんの謎の言葉と同時に、女子高生たちがコンビニから出てきた。ショートボブの子(たぶん、名前はユウちゃん)が、ラベンダー柄の手帳を持って、私たちに近づいてくる。
「お兄さん、ありがとうございます! これ超気に入ってて、なくしたのが家に帰ってからだったんで、家の周りばかり探してたんですっ」
するともう一人の子が、足元の数列に気づいて「あっ」と声をあげた。
「誰かが最後の数字、書き足してる」
「ええ。私が書き足しました」
お兄さんがにっこりしながら頷いた。
「今日でポール・ナッツの味を四巡したみたいでしたから」
「え……?」
これ、もしかして……。
「えええええ、これ、アイスの味を記してただけだったってことー!?」
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