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私が思わず叫ぶと、ユウちゃんが「だって」と声をあげた。
「ポール・ナッツのカップがどうしても大量に必要だったんです……」
見てください、とユウちゃんがラベンダー柄の手帳を開けた。
そこには、『抹茶、苺、バニラ、チョコ、キャラメル』と、ポール・ナッツのおなじみの味を行にした表が書かれていた。列部分は日付になっていて、何日に何味を食べたかを記すことができるようになっている。
だけど、表の中は空白だ。
「この手帳の表に、その日買ったアイスをカウントするはずだったんです。でも手帳をなくしちゃって。探し回ってる間にお盆休みに入っちゃうし、一気に記録する気が失せちゃって」
「ユウ、その手帳気に入ってたもんね」
「落としたって聞いたときにはマジで生ける屍みたいになってた」
同級生たちが口々に言う。
「この手帳、海外のブランドで、一点ものなんですよ? だからもう、別の手帳を買うなんてマジで嫌だって思って。腹いせに駐車場裏の縁石に落書きしてたら『どうせならここに記録しよう』ってヤケになっちゃって。どうせ何日になんの味のアイスを買ったかなんて、気合い入れれば頭の中で覚えられるんだから」
「つまり、あれはほんのたわむれに書いた、アイス購入表のメモ代わりだったわけですね」
お兄さんが咎めるでもなく、事実を確認するように述べた。炎天下の中ゆえか少し早口になりながらも、一番最初の数列『11100』を指す。
「私が初めてあのコンビニに行った時、きみたちの買ったアイスのレジ袋が私に本に当たりましたよね」
「ごめんなさい」
三人が声を合わせて頭をさげた。
「いえいえ。で、その時買っていたポール・ナッツの味は、抹茶、ストロベリー、バニラでした。私の前列だったので、レジでアイスの種類はよく見えましたよ。この数字が買った味のカウントだとすると、私はまずこう考えたわけです。『11100』のうち『1』は抹茶とストロベリーと、バニラ。『0』は買わなかった味です」
「あ……そうか」
うちで取り扱っているポール・ナッツの味は、今シーズンだと抹茶、ストロベリー、バニラ、チョコクッキー、キャラメルの五つだ。数字が五つ並んでいるのは当たり前だ。店員だったのに気づかなかったなんて。
「もしかして、お兄さんがキャラメルのポール・ナッツを買った日って……」
「まず私は、あの五つの数字がコンビニに関連する何がではないかと仮説を立てました。そこで店内を探してみたら、同じ商品でラインナップが五つなのはポール・ナッツしかない、という結論に至ったのですが……見ていたらアイスが食べたくなってしまって」
そんな冴え渡った推理と可愛い欲求の結果、あの日はお弁当と一緒にポール・ナッツのアイスを買っていたとは。
「となりますと、今日購入したアイスが、ストロベリー、バニラ、キャラメルだということは確認したので、こういうことになります」
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