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「直近4、3、3、4、3、から、彼女たちが決めたポール・ナッツの味の順番。つまり、さっき手帳で見た表と同じ列になるわけですね」
なるほどすぎるけど、私には一つ疑問があった。
「きみたち四人組は、いろんな味のアイスがそんなに必要だったの?」
「違う違う」
ポニーテールの子が手を振る。
「あたしたちが必要なのは、フタの柄が違うカップです!」
すると横からお兄さんが声を上げる。
「きみたちはポール・ナッツのカップを集めて、何をしようとしていたのでしょう? 私が一番気になっていたのはそこでした。コレクションならこんな数は必要ないでしょうから」
ベリーショートの子がこう述べた。
「あたしたち四人は、美術部員の同じ学年なんですよ。作品づくりのためにできるだけたくさんの味の種類のカップである必要があるんです」
「なるほど。美術の作品作成のためでしたか。最大のナゾが解けました」
「秋にある文化祭に展示するんだ。お兄さんも、よかったら来てくださいよ!」
お兄さんは納得顔だけど、私はここ数日無駄に心配して疲弊しまくっていただけに、まだ納得がいかない。
「そんなことなら、作品づくりに必要な分だけアイスを大量注文すればよかったじゃない! 毎日コンビニにやってきて三つだけ買うなんて……」
すると、女子高生三人から一斉に猛抗議が来た。
「そんなことしても中身を食べなきゃいけないし、学校の冷凍庫にもさすがにアイスをたくさん入れるわけにもいかないし。だからって作品制作のために部費で大量に注文したアイスを、一斉にクラスや知り合いにばらまくわけにもいかないじゃないですか!」
「そうですよ! 美術部員の部費でアイスがタダ食いできるなんてって噂が立ったら、みんなから『食べ物の作品にしてくれ』なんて言われて集られて、今度から部費が降りなくなっちゃう! あくまで作品のためなのに!」
「だから毎日ちょっとずつ、作品を作るメンバーだけでこっそりアイスを買って食べる極秘ミッションだったんですよ、これは。毎日食べるから太っちゃうし、ここ数日はランニングしてたんですから」
「うっ……! なるほど!」
そんな複雑なお金の事情があったなら、私には何にも言い返せない。
「やっぱりアイスってたまに食べるのがいいよね。毎日はまじできつい」
「四人の中で一人は、必ず一日胃を休める日にしてたもんねえ」
「──さて」
お兄さんがぽんと両手を叩いた。
「暑い中長らく引き止めてしまってすみません。みなさん、部活頑張ってくださいね」
イケメン男子から締めの言葉を受けて、高校生たちは「はあい」と笑顔で学校へと戻っていった。たった十数分ぶりだけど、お兄さんが私に視線を向けてくれる。それが無性にホッとした。
「暑いですね。カフェに戻りましょうか」
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