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晴れ渡る秋空の下、私はお気に入りのワンピースを着て、人がごった返している校舎前にいた。
ここはコンビニの近くにある進学校・私立東藤大学付属高等学校だ。
(ちなみに本校の偏差値は72らしい。)
今日の学校は学生のみならず老若男女でごった返していて、私はその中でそわそわと人を待ち続けている。
「──美澄さん」
そんな私の前に現れたのは、カジュアルスタイルのお兄さん──シュウさんこと、川畑秋雨さんだ。
彼の周りだけ爽やかになる空気や、撒き散らされるイケメンスマイルのキラキラに、周りの女子生徒やマダムたちが一斉に釘付けになる。
そんな人が、手を挙げながらこちらに近づいてくるんだから、私の心臓は爆発寸前だった。
「すみません、お待たせしました?」
「い、い、いえ! 今来たところです」
ああ神様仏様、これは本当に現実でしょうか……!
いちコンビニ店員の私が、シュウさんと一緒に高校の文化祭を巡ることができるなんて──!?
*
文化祭から遡ること一週間前。
私がバイトをしているイデマートは『東藤高校駅前店』って支店名だ。だから毎年、学校の文化祭が近くなるとポスターを店の窓に貼ることになっている。
「次にお並びのお客様ー……あっ」
そんななか、お昼時のレジにシュウさんがやってきた。殺伐とした時間のなかでも、シュウさんの姿を見るだけで心臓が高鳴ってしまう。
「こ、こんにちは!」
「こんにちは」
シュウさんがいつもみたいに本を小脇に抱えてえくぼを見せた。
ああ……シュウさんの顔を見ると色々と喋りたい。昨日見たドラマの感想とか、仕事は何をやっているのか、とか。
でも、我慢だ。
コンビニでは、私たちはあくまで店員さんとお客さん。一応メッセージの連絡先まで交換したけれど、相手は社会人で忙しいし……。
シュウさんが今日の購入するメニューはイデマートの新作スープパスタだった。
「商品のあたためはどうしますか?」
「お願いします」
スープパスタをレンジに入れる。
温め時間は二分半。この短い間が、私たちのフリートークタイムだ。
シュウさんが本を小脇に抱えて、店のガラス窓を指差した。
「お店の外に、高校の文化祭のポスターがありましたよね」
「そうなんです。あの美術部四人組の展示も出すみたいで、どんな作品なんだろうって思うとわくわくしますね」
シュウさんがカウンターに手をつけて、ほんの少しこちらに身を乗り出してくる。
「美澄さんも興味ありますか」
「え?」
「文化祭に行こうと思っていました?」
私は思わずのけぞってしまった。
「あ、えっと、はい……その日は暇なんで……」
本当は文化祭に行くかどうかよく決めていなかったけど、当日は大学の講義もバイトもなく、暇なのは間違いがない。
私の言葉を聞いたシュウさんは、口を引き結んだ。
「私もですよ。数列のナゾを解いた時に、文化祭に来てくださいと誘われましたし。……それに、好きなんです」
「へっ!?」
ドクン、と鼓動が変に跳ね上がった。
話が見えない上に、いきなり『好き』だなんて!?
「当日は体が空いている上、こういうイベントには昔から目がないんです」
そっちかーい! 紛らわしいなあもう!
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