1/3
前へ
/99ページ
次へ

 晴れ渡る秋空の下、私はお気に入りのワンピースを着て、人がごった返している校舎前にいた。  ここはコンビニの近くにある進学校・私立東藤(とうどう)大学付属高等学校だ。 (ちなみに本校の偏差値は72らしい。)  今日の学校は学生のみならず老若男女でごった返していて、私はその中でそわそわと人を待ち続けている。 「──美澄(みすみ)さん」  そんな私の前に現れたのは、カジュアルスタイルのお兄さん──シュウさんこと、川畑秋雨(かわばたしゅう)さんだ。  彼の周りだけ爽やかになる空気や、撒き散らされるイケメンスマイルのキラキラに、周りの女子生徒やマダムたちが一斉に釘付けになる。  そんな人が、手を挙げながらこちらに近づいてくるんだから、私の心臓は爆発寸前だった。 「すみません、お待たせしました?」 「い、い、いえ! 今来たところです」  ああ神様仏様、これは本当に現実でしょうか……!  いちコンビニ店員の私が、シュウさんと一緒に高校の文化祭を巡ることができるなんて──!? *  文化祭から遡ること一週間前。  私がバイトをしているイデマートは『東藤高校駅前店』って支店名だ。だから毎年、学校の文化祭が近くなるとポスターを店の窓に貼ることになっている。 「次にお並びのお客様ー……あっ」  そんななか、お昼時のレジにシュウさんがやってきた。殺伐とした時間のなかでも、シュウさんの姿を見るだけで心臓が高鳴ってしまう。 「こ、こんにちは!」 「こんにちは」  シュウさんがいつもみたいに本を小脇に抱えてえくぼを見せた。  ああ……シュウさんの顔を見ると色々と喋りたい。昨日見たドラマの感想とか、仕事は何をやっているのか、とか。  でも、我慢だ。  コンビニでは、私たちはあくまで店員さんとお客さん。一応メッセージの連絡先まで交換したけれど、相手は社会人で忙しいし……。  シュウさんが今日の購入するメニューはイデマートの新作スープパスタだった。 「商品のあたためはどうしますか?」 「お願いします」  スープパスタをレンジに入れる。  温め時間は二分半。この短い間が、私たちのフリートークタイムだ。  シュウさんが本を小脇に抱えて、店のガラス窓を指差した。 「お店の外に、高校の文化祭のポスターがありましたよね」 「そうなんです。あの美術部四人組の展示も出すみたいで、どんな作品なんだろうって思うとわくわくしますね」  シュウさんがカウンターに手をつけて、ほんの少しこちらに身を乗り出してくる。 「美澄さんも興味ありますか」 「え?」 「文化祭に行こうと思っていました?」  私は思わずのけぞってしまった。 「あ、えっと、はい……その日は暇なんで……」  本当は文化祭に行くかどうかよく決めていなかったけど、当日は大学の講義もバイトもなく、暇なのは間違いがない。  私の言葉を聞いたシュウさんは、口を引き結んだ。 「私もですよ。数列のナゾを解いた時に、文化祭に来てくださいと誘われましたし。……それに、好きなんです」 「へっ!?」  ドクン、と鼓動が変に跳ね上がった。  話が見えない上に、いきなり『好き』だなんて!? 「当日は体が空いている上、こういうイベントには昔から目がないんです」  そっちかーい! 紛らわしいなあもう!
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加