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「美澄さん、レジお願い!」
「はーい! お次にお並びのお客様ー」
店長に呼ばれて、私──美澄あかりはレジに入った。
世間は夏休みに入ったけれど、コンビニ店員の私は今日もレジでバーコードを打っている。大学は休みだし、彼氏もいないし、特にやりたいこともない。それ自体はまったくかまわないんだけど……。
レジの流れを止める客だけは、勘弁してほしいんだよね!
「ねー、早く出してよぉ」
「誰、誰、お金持ってんの」
こんな調子でえへへと笑い、じゃれつきながらいつまでも精算をしてくれない女子高生たちが三人。その後ろにはスーツやカジュアルスタイルの会社員たちが並んでいる。お昼時なんだから、いい加減どいてもらわないと困ってしまうのだ。
知ってる? 社会人は夏休みでも仕事なんだからね。彼らの貴重な昼休みが終わってしまうんだよ、きみたち。
「お会計おねがいしまぁす」
彼女たちがレジに置いたのは、ちょっとお高め、ポール・ナッツのアイスが3つで888円(ゾロ目だ……)。
味は抹茶と、ストロベリーと、バニラ。
彼女たちは財布からではなく、なぜか封筒からやっとお金を出した。
「112円のお釣りです。ありがとうございました」
無事にレシートを渡すことができたけど、アイスはたぶん溶け始めてるんじゃないだろうか。三人のうち二人はすでに炎天下の屋外に出ていて、最後に残った子が私の手元を見向きもせずに、アイスの入った袋を持って駆け出そうとする。
「あっ」
私が声をかける暇もなかった。女子高生が振り返りざまに揺れたビニール袋が、思いきり次のお客さんに当たった。
いや、本だ。お客さんが持っていた本に思いきり当たって、開いたページが宙を舞いながらぐしゃっと床に落ちてしまった。
しかも、ページの面を下にして。
「あ、お客様!」
女子高生は後ろの客の惨状を見向きもしないで、さっさと同級生を追いかけて行ってしまう。
ひ、ひどい……!
本の持ち主は若い男性だった。私よりは確実に年上のお兄さんだと思う。同世代の男の人にしては線が細くて、どちらかというとインテリチックな色白の肌だ。
お兄さんは本のページの折れ目を撫でながら、何事もなかったかのようにお弁当をレジに置いた。
「お願いします」
表情の動かざること山の如し?
「申し訳ありません。本、大丈夫でした?」
「あなたが謝ることじゃないですよ」
あ、お兄さんがちょっと笑った。
えくぼができてちょっとかっこいい……いや、〝かっこかわいい〟かも。
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