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 そんなこんなで、私はシュウさんと高校の文化祭を巡ることになった。  佐野くんの『デート』って言葉を思い出すと、なんだか変に意識し始めちゃうんですけど……。  今日のワンピ、変じゃないかな。日焼け止めも塗ったし、秋だから汗でメイクが崩れることもあんまりないと思うけど。  それに、一緒に文化祭を巡るだけだから、特別なことなんて何も起こらないだろうし。  ……いや、特別なことって? 何考えてるの、私!?  シュウさんは手元の文化祭のしおりを広げた。まずはコンビニの常連、美術部員四人組の美術展示を見に行こう、ということになった。 「じゃあ、行きましょうか」  うっすらとえくぼを見せてシュウさんが先を歩き出す。その背中を静かに追った。  高校生に、他校の生徒らしき違う種類の制服、親御さんや、私たちみたいな一般人……模擬店やステージも並んでいて、校舎の中とは思えないくらいに場は人で溢れている。 「それにしても、すごい人だかりですね……って! あれ!?」  きょろきょろしていた顔を前に戻したら、さっきまで一歩先にいたシュウさんがいなくなっていた。 「美澄さん!」  遠くで声がしたので背伸びをしてみると、五メートルくらいの先の人だかりに紛れて、シュウさんが手を挙げていた。私が声をかける前に、慌ててこちらに戻ってくる。 「すごい数の人ですね。うっかりしていたらはぐれてしまいそうだ」 「す、すいません! 私がよそ見していたせいで──」  謝るために頭を下げようとした瞬間、シュウさんが私の手首を掴んだ。 「っ……!」 「こうすればはぐれません」  シュウさんは一つも顔色を変えないまま、私の手を引いて目的の方角へ歩き出してしまう。  心臓がどくどくと脈打った。シュウさんの手は今まで触れた誰とも違う、大きくて暖かい感触がする。  特別なことなんか起こらないって思ってたのに。  早速、起きてしまった。  どうしよう……こんなの、意識しないほうが無理だよ……。 「あ、ここですね」  そうこうしているうちに、美術部の展示があるという『旧校舎棟』にたどり着いた。  私たちはどちらからともなく、握っていた手を離す。手首の温もりが離れていって、ちょっと名残惜しい気分だ。
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