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 お兄さんは一度腰をかがめたかと思うと、手に持った何かを私に差し出した。  手のひらサイズの手帳だ。綺麗なラベンダー柄をした、たぶん、海外ブランドのもの。 「落ちていました。さっきの女子高生のうちのどなたかが落としていったのだと思います」  ありゃりゃ。三人組も慌てていたみたいだし、落としても気づかなかったんだろうな。 「ありがとうございます! お店で一旦お預かりしますね」  お兄さんの親切に感謝だ。ラベンダー柄の手帳を受け取ってバックヤードに一旦置くと、すぐにレジにとんぼ返りして、今度はお兄さんの品物をPOSリーダで読み取っていく。 「お弁当はあたためますか?」 「お願いします」  「うん」でも「ああ」でも「いちいち聞かなくてもわかるでしょ」でもなく「おねがいします」。とっても気持ちがいい!  先ほどまで数人並んでいた客の列は、隣のレジがさばいてくれたようだった。お弁当をレンジに入れた後は会計を待っている人もいなかったので、なんとか気を直してもらおうと声をかける。 「さっきの子たち、近くの学校に通っていて、部活も一緒みたいなんですよ」 「ああ、近くにありますね、高校が」  お兄さんは私との会話にも嫌がらずに応じてくれた。 「そうなんです、超偏差値高い高校で……でも、悪い子たちではないんです。少し前から必ず三人でやってくるようになったんですけど、でも顔ぶれが毎回少しずつ違って。数えてみたら四人組みたいでした」  髪型はみんなそれぞれ違って、ポニーテール、ボブカット、ベリーショート、ストレートロングだ。 「へえ。それは面白いですね」 「四人のうち三人がローテーションで来るから……ええと」 「四通りですね」  速い! 私が、女子高生の買い物メンバー組み合わせパターンを数えるために指を折り始めた瞬間、兄さんが雑談の延長のように答えを挙げてしまった。 「すごいです! お兄さんもしかして、理系男子ですか!?」 「はい、学生時代はそうでしたね」  電子レンジがビーと鳴った。レジ袋に弁当を入れて彼に差し出す。 「のり弁のあたため、お待たせしましたー。ありがとうございました」 「ありがとうございます」 「え、あ、こちらこそありがとうございます」  商品を受け取ったタイミングでお兄さんがお礼を言ったものだから、面食らった。思わず無意味にお礼を返してしまう。 「ふっ」  お兄さんが少しだけ笑った。またあのえくぼがちょっと見えて、とっさに私は曖昧な笑顔を返してしまった。  お兄さんはかっこかわいい、けど、こちらは変な顔を見せてしまったんじゃないかと、すごく恥ずかしかった。
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