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それから数日のあいだは、夏にふさわしい晴れの日が続いた。ふさわしいとはいえ、決してありがたいわけではないけれど。
世間が夏休みでも、コンビニのお昼時は相変わらずの忙しさだ。
四人組の女子高生たちは毎日のように三人のローテーションで店に来てはきゃっきゃとはしゃいでいるし、〝かっこかわいい〟お兄さんも、ほぼ毎日お弁当を買いに来てくれる。
お兄さんはレジに長蛇の列ができる時、決まって本を開いて読書をしていた。彼の今日のお昼ご飯は、冷やし担々麺のようだ。
それにしても、スーツなのに冷やし担々麺を食べて、大丈夫なのかな……? ワイシャツに汁がはねたら大変だ。
レジ袋に商品を詰める時、おしぼりは二枚にしておいた。
「ありがとうございましたー」
昼時の混雑もピークを超えて、店長に頼まれた私はまたコンビニ裏の駐車場へゴミ出しへ向かう。
コンビニ裏とはいったけれど、駐車場は実際のところ店舗のすぐ横にある。入口を潜ってすぐのところだ。その向かいにある電柱の下が、ゴミ出しの指定場所だった。
「あれ……?」
ゴミ出しのため道路を渡ろうとした時、駐車場の縁石をじっと見下ろしている人影を見つけた。先ほど坦々麺を買って店を出たばかりのお兄さんだ。
あの場所……確か数日前に、数列が書いてあったところだ。
なんだか嫌な予感がして、両手に持ったゴミを早々に置くと、お兄さんの元へ小走りになった。
「あの、どうかしました?」
お兄さんの横に並んで言いながら、私は彼の視線を追って地面を見下ろした。そこには……。
11100
12011
「ふ、増えてるっっっ!!」
ま、間違いない。この前私が消したはずの『11100』という謎の数字の下に、数列が一つ増えている!
「お、お兄さんがこの数字を書いたんですか!?」
レジ袋を持ちつつ、炎天下の中顎に手を当てて数列を見下ろしていたお兄さんが、やおら顔を上げた。
「いいえ、私ではありません。興味深いなと思って見ていたんですが……『増えてる』とは? 店員さん、この数字のことを知っているんですか?」
「それ、数日前に一列目が書かれていたんです。気味が悪くて消したはずだったんですけど……」
「なるほど。消した数列がまた書かれている上に、二列目が増えている、と」
「そうなんです……!」
もしも子供の落書きだとしたら、いちいち書き直すなんてなんて執念なの!
茹だるような夏の暑さの中にいるのに、背筋にまた寒気を感じた。レジの決算で売り上げと品目があわないくらいに気持ちが悪い。
「──美澄さん、おっつーっす!」
背後から声がしたので振り返ると、よく同じシフトで顔を合わせる後輩の佐野くんがやってきた。
「昨日の『不良探偵』の最新話配信、見ました? マジぱねぇ展開……あれ、どしたんすか。それに、お客さんも」
「おはよう。ねえ見てこれ」
私とお兄さんは示し合わせたみたいに間を開けて、佐野くんに数列を見せた。
「うわ、なんすかこれ」
数列を見た佐野くんが私と同じような反応をしてくれて、心底ホッとした。彼にもこの数列の意味はわからないみたいだ。
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