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「落書き……っすかね?」
「わかんないんだよねえ。消したのに書き直しているし。なんなら数日前から一列増えてるし」
「え、増殖するんすか!? こっっわ!」
この数字はいったいなに? 暗号? それともなにかのカウント?
考えを巡らせていると、佐野くんが「あ!」と声をあげた。
「昨日の『不良探偵』なんすけどね? 空き巣が同業者の合図のために、マンションのメーターボックスの裏に印をつけるってやつ、やってたんですよ……」
「え!? でも、あれはただのサスペンスだし、コンビニに空き巣なんて入るのかな?」
二人一緒に顔を見合わせる。ここはマンションじゃないから空き巣はできない。コンビニの犯罪といえば……、まさか!?
「「コンビニ強盗!?」」
私と佐野くんの声が重なる。
「そういえば……普段このコンビニのお昼時によく回す店員の人数、五人くらいだよね!?」
一番混む時間は三人でレジを回すことが多く、残りの二人はその時々の予定によってオフだったり、無くなりやすい品目の陳列をしたり、レジのヘルプに入ったりする。だから、うちでは昼時は五人くらい必要だ。
「そうじゃん! 店員の人数把握されてるってことじゃねえっすか!」
何かの計画がこのお店で立てられているとしたら……!
「これ、早く消さないとっすよ!」
「そ、そうだね、私ブラシとバケツ持ってくる!」
「いえ、これは消さずにおきましょう」
私と佐野くんがあたふたしているところに、お兄さんが凛とした声を発した。
「この数字にはとても興味を惹かれます。もしかしたら今後、数列はさらに増えるかもしれません」
「ええ!? そんな怖いこと……!」
私は助けを求めるように佐野くんを見た。彼も一緒に抗議してくれるつもりか、わなわなと拳を震わせている……と、思いきや。
「なるほどっす! 現場検証っすね!」
「へっ!?」
「確かに、このまま消して情報不足になるよりは、捜査して犯人とっちめたほうがいいっすよね? そういうことっすよねお客さん!」
「いえ、そういう大層なものではないのですが」
さ、佐野くん! 『不良探偵』の見過ぎだよ! ほら、お兄さんも苦笑してるじゃん!
「とりあえず俺、店長呼んでくるっす! 美澄さんは証拠物件として写真撮っといてくださいっす! 後よろっす!」
「あ、ちょっと佐野くん!」
佐野くんはビビリ腰のまま、店の中に引っ込んでしまった。その横で、お兄さんも踵を返してしまう。
「昼休みが終わるので、私もこれで」
「え、え!?」
お、お兄さんまで!
し、仕方ない。一人取り残された私はポケットからスマートフォンを出して、数字の羅列を写真に収めた。
それと同時に、佐野くんが連れてきた店長が店の外に出てきたので、無理やりコンビニ裏へ引っ張った。
店長はのっぽでちょっと頼りなく見えるけど、これでも小学生の娘さんがいる立派なお父さんだ。困った時は店長に言えば大抵なんとかなる!
……だけど、店長は私たちの全然とりあってくれなかった。
「強盗なんて、気のせいだと思うけど」
「で、でもこれまるきり私たちのお昼時のシフトじゃないですか!」
「誰がいつ働くとか、把握されちゃってるんすよ、きっと!」
「もしそうだとしてさ、こんなわかりやすいところに記しておくかね、普通? 盗みに入るとしたら建物の真横だよ? ここ」
至極まともなことを言われて、私たちの興奮が瞬時にして鎮火される。
「そうですけど……」
「ま、とりあえずなにかあったら警察呼べばいいんだし」
「店長! 事件は起きてからじゃ遅いんっすよ!」
「はいはい」
なおも抗議しようとする佐野くんを押しやって、店長は早々に店の中へ戻っていってしまった。
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