2/3
前へ
/99ページ
次へ
「落書き……っすかね?」 「わかんないんだよねえ。消したのに書き直しているし。なんなら数日前から一列増えてるし」 「え、増殖するんすか!? こっっわ!」  この数字はいったいなに? 暗号? それともなにかのカウント?  考えを巡らせていると、佐野くんが「あ!」と声をあげた。 「昨日の『不良探偵』なんすけどね? 空き巣が同業者の合図のために、マンションのメーターボックスの裏に印をつけるってやつ、やってたんですよ……」 「え!? でも、あれはただのサスペンスだし、コンビニに空き巣なんて入るのかな?」  二人一緒に顔を見合わせる。ここはマンションじゃないから空き巣はできない。コンビニの犯罪といえば……、まさか!? 「「コンビニ強盗!?」」  私と佐野くんの声が重なる。 「そういえば……普段このコンビニのお昼時によく回す店員の人数、五人くらいだよね!?」  一番混む時間は三人でレジを回すことが多く、残りの二人はその時々の予定によってオフだったり、無くなりやすい品目の陳列をしたり、レジのヘルプに入ったりする。だから、うちでは昼時は五人くらい必要だ。 「そうじゃん! 店員の人数把握されてるってことじゃねえっすか!」  何かの計画がこのお店で立てられているとしたら……! 「これ、早く消さないとっすよ!」 「そ、そうだね、私ブラシとバケツ持ってくる!」 「いえ、これは消さずにおきましょう」  私と佐野くんがあたふたしているところに、お兄さんが凛とした声を発した。 「この数字にはとても興味を惹かれます。もしかしたら今後、数列はさらに増えるかもしれません」 「ええ!? そんな怖いこと……!」  私は助けを求めるように佐野くんを見た。彼も一緒に抗議してくれるつもりか、わなわなと拳を震わせている……と、思いきや。 「なるほどっす! 現場検証っすね!」 「へっ!?」 「確かに、このまま消して情報不足になるよりは、捜査して犯人とっちめたほうがいいっすよね? そういうことっすよねお客さん!」 「いえ、そういう大層なものではないのですが」  さ、佐野くん! 『不良探偵』の見過ぎだよ! ほら、お兄さんも苦笑してるじゃん! 「とりあえず俺、店長呼んでくるっす! 美澄さんは証拠物件として写真撮っといてくださいっす! 後よろっす!」 「あ、ちょっと佐野くん!」  佐野くんはビビリ腰のまま、店の中に引っ込んでしまった。その横で、お兄さんも踵を返してしまう。 「昼休みが終わるので、私もこれで」 「え、え!?」  お、お兄さんまで!  し、仕方ない。一人取り残された私はポケットからスマートフォンを出して、数字の羅列を写真に収めた。  それと同時に、佐野くんが連れてきた店長が店の外に出てきたので、無理やりコンビニ裏へ引っ張った。  店長はのっぽでちょっと頼りなく見えるけど、これでも小学生の娘さんがいる立派なお父さんだ。困った時は店長に言えば大抵なんとかなる!  ……だけど、店長は私たちの全然とりあってくれなかった。 「強盗なんて、気のせいだと思うけど」 「で、でもこれまるきり私たちのお昼時のシフトじゃないですか!」 「誰がいつ働くとか、把握されちゃってるんすよ、きっと!」 「もしそうだとしてさ、こんなわかりやすいところに記しておくかね、普通? 盗みに入るとしたら建物の真横だよ? ここ」  至極まともなことを言われて、私たちの興奮が瞬時にして鎮火される。 「そうですけど……」 「ま、とりあえずなにかあったら警察呼べばいいんだし」 「店長! 事件は起きてからじゃ遅いんっすよ!」 「はいはい」  なおも抗議しようとする佐野くんを押しやって、店長は早々に店の中へ戻っていってしまった。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加