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「あの、差し出がましいことを聞くんですが、いつもより元気がないようですね?」 「あっ、うーん」 「あの数列のことが、気になっているんですか?」  もしかして私、元気がないのが顔に出ていたのかな。接客業なのに、これじゃダメだよね。  でもあの不気味な数列を見てしまうと、空元気する気力も無くなってくる。 「あの数字はやっぱり、コンビニ強盗の計画なんじゃないかって思うんです。店長は気にするなっていうんですけど」  するとお兄さんはレジ袋を手首に吊るしたまま指で顎を押さえて、少し考え込む仕草をした。 「お兄さんは、ここに強盗がくると思いますか?」 「わかりません。ですが、あの数列が少なくとも店員さんの心配を煽っていることは事実です。帰りに、増えた数列を見てみることにしますよ」 「ほ、本当ですか!」 「はい。私が『消さないでくれ』と申し上げた責任もありますから」  お兄さんは安心させるように、顔にえくぼを作ってくれた。 「大丈夫。物事はそう根拠なく、悪い方向には行きませんよ」  その言葉に、不思議と私の不安は一瞬だけすっと軽くなった。  物事は根拠なく悪い方向には向かない。  お兄さんの言う通りだ。少なくとも、いまの私には理系のお兄さんという強力な味方がいてくれる。  もしもお兄さんの助言に従わず数列を消したままだったら、私たちの周りで何が起こるか手がかりすら掴めずにいたかもしれない。 「あ、アイスがいい具合に溶ける」  お兄さんは朗らかにひとりごちると、店から去っていった。 「ありがとうございましたー」 *  あれから数時間後、仕事終わりに駐車場へ回ってみた。 11110 12011 22112 32123 33233  また、増えてる。  お兄さんは、この数字を見てくれただろうか? そこから何かを読み取っただろうか? 「でも……」  お兄さんならこの不気味な数字の謎を解いてくれるんじゃないかと、さっきまで期待してはいた。  だけど、こんな暑い中で仕事をしているのに、たかだかコンビニ店員の私の不安なんか、取るに足らないんじゃないだろうか。  レジでの励ましは、昼休みも有限だし、アイスが溶けてしまうからって、話を早く切り上げたかっただけなのかもしれない。
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