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#3 卒業生からの愛をきみへ
「今は三月よ。どういう風の吹きまわし?」
「二月。もしもパイセンに会えたら渡そうと思ってたっすが会えなくて」
今の時代。女は男だけにチョコを渡すだけのイベントなんかではない。
友チョコなんかも流行っている。その一環か何かのつもりなのか。
「今日なら絶対に会えるって。渡そうって」
「ふぅん」
あたしは十和子を見て横に座れと椅子を叩く。ちょこん。十和子もようやく腰かけた。
そうだ。
これがいつものあたしたちだ。
「……あ。バス」と強張った声が見えるバスに落胆を添える。
「あれは違うバスよ」
十和子が見たバスはあたしたちを乗せるバスではない。
正真正銘の見た目は同じ形状のバスだが――スクールバス。
他の高校用だ。毎回、それを見送ってから数分後にあたしたちが乗るバスが来る。
「十和子は卒業したら進学? それとも就職なのかしら?」
「うちは頭よくないし働くっす。そんで資格を取るっす」
「そう」あたしは十和子なら一緒の大学に来ると思っていただけに肩透かしを食らう恰好になってしまう。
「ああ。そうそう」
あたしはコートのポケットに手を突っ込んだ。
「これ。あげるわ、三月だからあたしには終わってなんかいないわよ」
「パイセン」
十和子の言葉が強張る。それもそのはずだ。
思いもしなかったでしょう。
あたしが告白するなんて。
「あたし。十和子ともっと、もっと――」
「どうして死んでしまったんすか」
あたしは耳を疑った。え。
誰が、死んだっていうの。十和子の顔は曇って涙が頬を濡らしている。彼女は嘘を吐くことはない。しかも、本人に向かってだ。
じゃあ。あたしは――
記憶が一気に鮮明になる。
(ああ。あたし、バス停で轢かれたっけ)
(二月に)
(でも、どうしても十和子に渡したくて、言いたくて)
バス停で待っていた。十和子を見ていた。
「うち。寂しいっすよ」
「十和子。あたしもよ」
告白は言えた。告白は聞けた。
未練はないとはいえないけどこのままいれば厄介になるだけだ。さようなら、十和子。
「バスが来たわ」
「ぅ、うぅうう」
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