おいしいChocolate

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それから数カ月経った六月、先輩から突然手紙が届いた。 結婚式の招待状だった。青天の霹靂とはいうけれど、突然受けた衝撃は大き過ぎたらしく物事を理解する許容範囲を大幅に越えてしまったらしい。 その日から何もかもが上手く行かず、とうとう寝込んでしまった。 彼女がいたなんて聞いたこともなかった。というか、勝手にいないと思っていたから聞いたことがなかった。 学校で友達になったユリはわたしと会うたびに、先輩ちーちゃんの事好きなんじゃない? でなかったら、10年も連絡し合わないわよと言う言葉に浮かれてひとりで盛り上がっていたなんて、なんてみじめなんだろう。 結局体調は戻らなかったが、仮に元気になったとしても幸せな先輩とその彼女を祝福しに行くなんて到底無理な話しだ。 ふと思う。 もしも、バレンタインのあの日チョコレートを渡していたら、わたしと先輩の関係は変わっていただろうか・・。 目の前では、何も知らないユリが出席した結婚式の様子を報告しに来ていた。彼女も新婦とは初対面で、 「驚いたことに、あの先輩が彼女の手作りチョコに撃沈したんだって。だから同じ同業者かと思ったのに、普通のOLでお菓子作りが趣味だって言ってたわ。料理も得意らしいし、男をゲットするには胃袋を掴めって言うけど、ほんとなのね」 「わたし家庭の味に負けたの?」 「んっ?」とユリが小首を傾げた。 最高を目指して必死でやってきたのに・・。 「彼女も働いているからでしょうけど、料理をしている時間がなくていまは外食ばかりだから申し訳ないって。あの顔で言われたら仕方ないわね。そういうところが、また男心をくすぐるのかしら」 なにを聞いたって耳から耳へ通り抜けていくだけだった。 そして、早くお店を開けなきゃ、家賃も払えない。それがわたしの現実だった。
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