おいしいChocolate

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しばらく休業していただけのお店は、何十年も放置されていた廃墟のようだった。使用しない物はその瞬間から朽ちていく。 店内の隅々まで掃いて拭いて磨き上げる。そうすることですべてのものが再び息をし始めた感じがした。 ひとつは消えてしまったけれど、わたしが愛して止まないものがここにあるじゃない。それで十分よ。 すべてを片付け、最後にポストに溜まった郵便物の塊も不要必要に分けていると、その中に先輩からの結婚報告兼新居のお知らせが混ざっていた。 こんなところにまで・・。 思った瞬間ゴミ箱に放り投げようとしたのに、思わずその手が固まって動かない。二人で並んだ写真だ。 「これ・・・・!!」  先輩の隣で笑っていたのは、あの日最後に来た客だった。 「まさか、手作りチョコって・・・」 わたしの28年が詰まったチョコレートを、自分の手作りだと言って彼女は先輩に食べさせたんだ。 想像もしていなかったことに呆れるしかなかったけれど、彼女の行為以上に、わたしのチョコを彼女の手作りだと思った先輩が許せなかった。 どこをどう間違えばそう思えるの? 十年来の想いは、もはや憎さ100倍。あー、ムカムカが止まらない・・・。 と、カチャと背後で店のドアが開いた。 「すみませんが、まだ休業中で・・、んっ!!」
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