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3.ベンチのソーシャルディスタンス
シーツに放置したスマホが急に震える。熱から冷めた体がビクンと反応する。慌ててティッシュで手を拭い、画面をスライドする。
不破くんから、通話だ!
『あ、亜藍くん。夕方、時間ある? 賄い貰いすぎたから、一緒に食べたいなぁと思って』
「あー……」
彼は苦学生。リアルで練習有りの体育会系部活の他に、個別塾の講師と唐揚げ屋さんでアルバイトもしている。
「えっ……あ、その……」
『ほら、俺の最寄り駅におっきな公園あるでしょ。屋外だし、どう?』
不破くんは言葉を被せてくる。躊躇いに配慮してくれる。
僕は両親が医療関係者の上、高齢のばーちゃん達と同居。まだ大型イベントには参加しづらい。お小遣い内で生活可能だから、バイトも経験無し。誰かと遊び歩くのにも積極的になれなくて。
「そっか、ありがとう」
直前まで彼本体をオカズにしていて、髪を掻き毟りたくなるほど恥ずかしい。
でも、声を聴いたら本物に会いたくなってしまった。
横断歩道の向こうに、のっぽの頭が見える。やっぱり嬉しい。
大通りの車越しにブンブン手を振ると、エコバッグを両手にぶら下げた不破くんが、どう返そうか困ったように身動ぎしている。
「亜藍くん!」
大声はダメなのに、結局張り上げちゃう不破くん。でも嬉しそうだ。
早く青信号にならないかな。
広場の水道で手を洗い、携帯アルコールをシュッシュし合う。花壇脇のベンチを二つ陣取って、別々に座る。
「どうぞ」
「はい、いただきます」
恭しく差し出されたタッパーを受け取る。中には白米と唐揚げと、茶色メインの……え、この副菜全種類、不破くんの手作り?
ワクワクしながら、マスクを外す。先ずは飴色に煮しまった大根を、パクリ。
「あ、うま!」
ガッツリ濃い味。野菜のおかずで飯が何杯も食えるレベル。我が家はじーちゃん世代に合わせた塩加減で、パンチが足りない。外食も気軽に出来ないし。
うまうまで、箸が止まらない。
「元気出たね。よかった」
ハッとして振り向くと、不破一茶くんの顔が。マスク無しで、全部。
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