三回目は二度目の恋

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三回目は二度目の恋

1.対面講義の隣の席 「亜藍くん、終了だよ。大丈夫?」  隣の席から、こそっと穏やかな声がする。大学のゼミ室。僕はぼーっとしていたみたい。 「ん、ありがと」  柔和な物腰の同期に、ほんのり笑顔で返す。  やっと入構対面奨励になった講義。不破一茶くんは、今年度初めて出会った友達で……今ちょっと気になっている人だ。  幼馴染でモデルのLUNAとは別れた、のかな。連絡がつかなくなり、ずいぶん経つ。自然消滅ってやつ。  渡欧して半年。このご時世、簡単に帰国できないのはわかる。でも電話もSNSも返ってこない。頑張って書いたエアメールにすら。  売れっ子だから、動向は自然と目に入る。あっちで元気そうだ。  僕の体から紅い痕はとっくに消えた。心に痛みだけを残して。 「行こ」  不破くんと並んで、ゼミ室を出る。トンと肩が接触する。  痛い。いや、彼はちょっと大柄で、当たりは柔らかい。ツキンと痛むのは、僕が臆病だから。 「ごめん」  怖くて彼を見上げられない。首がカチンと動かない。  初恋は強引なLUNA任せで、僕は流されるだけだった。  僕は平凡腐男子だけれど、現実は理解している。不破くんは、本当に久しぶりに出来た友達なんだ。  進級必須単位は、オンライン講義でほぼ取得済み。入ったサークルは、歓迎会も合宿も無い。学園祭もWEB開催で、実質活動は無かった。  新しい友達の上、同性の男。幼馴染が初恋で経験値が低い僕には、どうしたらいいかわからない。 「亜藍くん、何だか心配だなぁ」  一コマでさっさと帰る電車内。ガラガラの席に並んで座ると、不破くんは僕の肩を引き寄せる。 「ちょっと眠ったらいいよ。目を瞑るだけでも」  大きな手のひらが首筋に触れる。接した肩が熱い。  横から覗き込むと、マスク越ししか知らない顔。なぜか悔しい。
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