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1話
今宵はデュオン国の王都にある王城で、夏の訪れを感謝する舞踏会が開催されていた。
「フウッ～、飲みすぎてしまったわ」
私、公爵令嬢カサンドラ・マドレーヌは婚約者のエスコートがなく、不貞腐れてワインを一本空けてしまっていた。さすがに飲みすぎてしまったと、夜風にあたりにバルコニーから夜の庭園へと繰りだした。
「まぁ星空が綺麗ぇ～ 夜のバラも見応えがあるわぁ〜」
カサンドラの頭上に眩い星空が見え、その下ではランタンの灯りに照らされた、バラ達が夜風にゆらめいている。
見事な庭園に目を奪われながら風に当たり。
酔いを覚ましていたカサンドラは、庭園の中央にある噴水までやってくると、石造の噴水に腰を下ろした。
「ハァ、気持ちいい〜」
この噴水中央の台座には、大昔この国を護ったと逸話が残る大聖女マリアンヌの銅像が杖を持ち、王城を見守るように設置されている。
噴水の側は気持ちよく、カサンドラはしばらくここで涼もうと決めた。そのカサンドラ居る、近くの茂みでボソボソ言葉を交わす、男女の声が聞こえた。
いつもなら気にしないカサンドラだが、ほろ酔いのカサンドラは好奇心で『どこぞの貴族の逢瀬かしら？』と覗いた。
「ねぇアサ様ふくよかな、お姉様よりもあたしの方が可愛い？」
「あぁ可愛い、僕のシャリィ」
（えっ⁉︎ アサルト様と妹のシャリィ？）
酔いが覚めるというのは。こういう事だと分かるほど、カサンドラは驚きで目を見開いた。
このバラ園に隠れるようにして、カサンドラの婚約者の皇太子アサルト・デュオンと。妹のシャリィ・マドレーヌが愛をささやき、抱き合っていた。
（どうして、二人が？）
このとき。カサンドラの耳にザーッと耳鳴りが鳴り……目の前に広がる噴水、バラ園がカサンドラの瞳から消え。周りのバラ園も、夕焼けの空に景色も見知った景色に変わった。
（ここ……王都の中央通りだわ）
その通りで民衆たちに罵声を浴びせられ、石を投げられる。痩せこけ煤けた体と艶のない長い黒髪の女が、騎士達に囲まれて歩いていた。
その女の手足には罪人の証……木製の手枷と、足枷が付けられている。突然の事態に呆然と、民衆に混ざり見つめるカサンドラの前で、女の足が止まりこちらを向いた……
（えっ？）
カサンドラは女を見て、驚きを隠せない。
頬が痩せこけ煤けているけど……黒髪と水色の瞳と、左目の下のほくろは紛れもなく……私。
しばらく、カサンドラを見つめていた女は騎士に背を押され、再び罵声のなか歩き始める。
『あの見た目で、皇太子妃を殺そうとしたんだとよ』
『魔女、カサンドラめ！』
『実の妹に毒を飲ませようとするなんて、太々しい女だ！』
『魔女』
『魔女め！』
皇太子妃？
妹に毒？
「…………（クッ）」
激しい胸の痛みではなく、激しい頭痛がカサンドラを襲い瞳を開けると……元いた、大聖女マリアンヌの銅像が立つ、噴水の場所に、 カサンドラは戻ってきていた。
（なんだったの？）
今、垣間見たものに言葉を失い、冷や汗はダラダラと、カサンドラの頬を流れ落ちた。
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