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正
「もうっ!咲楽は笑顔振り撒き過ぎ!」
夏至を過ぎ未だ日が長く、熱帯夜を予感させる夕暮れ時。そんな気だるいお迎え時間も、子供達に一番人気の咲楽先生の笑顔を見れば、疲れが吹っ飛ぶと専らの評。
「卓哉パパ近い!近い!」
保育園近くに停めた車中で、ハンドルを握り締め一人騒ぐ男、高木守。
彼は職業柄、人の顔を覚えるのが得意だった。愛する女性の周囲にいる人は勿論、一回でも見た相手は忘れない。
高木咲楽は、さっきからサングラスの下で百面相を繰り返す守の妻。続々と来園する保護者一人一人に、神対応と癒しの笑顔を向ける彼女。
「う~可愛い~」
そして妻にデレっぱなしの守が不審者に見えないのは、車の窓がスモークがかってるせい。
ハイクラスの車種に乗り、仕立ての良いスーツを着てオールバック。一見そっち系に見えそうな強面の雰囲気を醸し出してる。
しかし、
守はサングラスを外すと印象がガラリと変わる。いわゆる童顔。
昔から実年齢より若く見られた。コンプレックスに思ったこともあったが、今はそれが武器になっている。
会社から帰宅途中の保護者達と違って、守はこれから夜の街に出勤する。
「あ~又アイツ!」
クールビズのイケメンが、最近よく咲楽と話し込んでるシーンを見かける。彼女が好きそうな顔立ちで、守は気に入らない。先日それとなく問うと、
『んっ?寺内仁くんのお父さんかな?入ったばっかで色々心配なんだよ。離婚して子連れで引っ越しって、諸々慣れるまで大変だよね…』
と神妙な顔で答えた。
今日も今日でお迎え最後に飛び込んできて、汗を拭きながら咲楽と歓談する立ち姿は、男の守から見ても精悍で腹が立った。
「全く俺以外、咲楽に甘えるなよ!」
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