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彼女は同僚の話に相槌を打ち、時折そっと背に手をおいていた。その穏やかな咲楽の所作とは反対に、守は初めて聞く酷い話の様に振る舞った。 二人から違う方法で癒され、千香子のストレスはかなり解消したのだろう。 『もう帰る〜』 と席を立ち、化粧室に向かった。 彼女達の職場環境は特段悪いものではない。 昨今、来店する客が口にする似たり寄ったりな悩みに、大袈裟な態度で傾聴し理解を示すことが、ストレスの中和に役立つ時もある。 逆に増幅させる時もあるので、静かな傾聴か否かは客に応じて使い分ける。それが一流ホストの技量だ。 『彼女、相当溜め込んでたみたいだけど、貴女は大丈夫?』 心配そうに千香子を見送る咲楽に、守は初めてにじり寄った。彼女は少し驚いた表情を見せてから、彼が近付いた分自然と離れた。 『私はへーき。千香子先生のクラスは特に大変だから』 そう言って座ったまま、両足と組んだ両手を裏返しに伸びをする。 子供達相手だと専ら動き回っているだろうに、ずっと同じ姿勢で強張った首筋と長い四肢を解す彼女を見つめながら守は、 『でもホラ、悪い空気って伝播するでしょ?咲楽さんも何か嫌な事あったら、リセットしにきて、ねっ!』 と評判の母性本能をくすぐるアザ可愛い笑顔で覗き込むと、彼女の顔が真っ赤に染まった。
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