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…だが、 咲楽が一人で来店することはなかった。千香子の付き合いでくる程度。 段々と打ち解けてるのは感じられた。 保育士を目指したのは歳の離れたお姉さんの子供の世話をしたからだったり、 自分も早く結婚して子供が欲しいと望んでいること等、つまびらかに身の上話をしてくれた。 何度か守より上背がある彼女を見送るうち、頭にとある考えが取り憑いた。 あの大柄で健全な女性に、健康で丈夫な自分の子を産んでもらいたい。 いつも店に入る時、まるで不向きな場所に来るように少し身を縮めている咲楽。 ホスト相手にも丁寧で礼儀正しい態度だが、裏腹気を許してる千香子には崩れた口調や行動を見せる。 店内の灯りでは静かな笑顔も、青空の下子供達と一緒だと破顔した賑やかな笑い声に変わるのだろう。 去り際、新鮮な外の空気をそっと深呼吸する彼女にとって、俺達は余程アウェイなのか。 今まで組み敷いた女達と、大分毛色が違う。 だからこそ惹かれる。 守の母は、出産と同時に亡くなり父は再婚した。義理の母とその連れ子、絵美里。家族四人の幸せな暮らしは、絵美里の発病で一転する。 高額な医療費を捻出する為に働きづめの父。クラファンで手術資金を募る義母。しかし、妹は助けられなかった。 結局父は過労から鬼籍に入り、絶望した義母はクラファンで知り合った相手と逃げた。そしてその一連の不幸が、今の守を形成した。 最低の屑男にならなかったのは一重に、見舞いに行くたび絵美里が彼に向けた満面の笑顔が思い出されるからだ。
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