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守との会話から、アプローチかけられてるのかな? と半信半疑に感じ始めたのは、千香子と一緒に4、5回店に行った頃だろうか。 私に気があるの!? 営業だよねと思う反面、童顔だが心地よい低音ボイスの彼を前にすると、満更でもなかった。 店の支払いは、大半が千香子が持っていた。彼女は、咲楽達が勤める保育園や社会福祉事業所を立ち上げた創業者の一族である。 これ見よがしなブランド品は身につけないが、何気にお嬢様だ。 割り勘を申し出ても、 『私が誘ったんだから』『咲楽先生は、付き添いだから』 と流される。なので、せめて彼女が深酒や推しのホストさんと暴走しないで、無事帰路につくのを見守ろうと割り切った。 もし此処で感染して周囲から非難されても、発散したい鬱憤や葛藤が彼女にはあるのだろうと思うと、友人として付き合おうと覚悟した。 ゆっくり酒を飲む自分は、お財布係ではない。だから守からのアピールは最初、浮き足立つ気持ちと同時に、 『私にしたって無駄なのに』と一抹の冷めた想いを感じていた。 ただ、イケボの整った顔立ちの彼が片膝ついて切々と見上げてくる構図は、反則である。含んでた酒で咽せるし、その晩は寝付けないしで散々だった。
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