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「てっきり社会的信頼度UPの為の結婚かと思ったわ、話聞いた時。まぁエイトも人並みな感情持ってて良かった」
丁度店の月極駐車場に停車した時、亜美が感想を言って話を締め括った。
「ええ、何それー」
守は笑い飛ばしながら助手席に回り、ドアを開け完璧なエスコートに徹した。
さすが、物書き。
鋭いね。
話さなかった残り半分は、亜美の想像に近い。
守が運営に回り、ハイクラスの客達と交流するには、周囲の人々に対し以前とは違った責任の取り方や、心理的安全性を担保しなければならなかった。
結婚。
それが一番手っ取り早い解決策。
ただ人選をしっかりしないと後々面倒だ。金に強欲でも卑屈でもトラブルの元だし、容姿はこざっぱりしてれば問わない。年齢に関しては、幅広く対応できる自信がある。健康、それが最重要。
そんな事をつらつら考え始めてた時、条件にピッタリ当てはまる高木咲楽が現れた。
普通の一般女性。
渡りに船とばかり、砂糖をまぶした様な甘い言葉と行為を提示した。俺は彼女に対し
愛してるフリを続け、
愛してると思い込み、
本当に愛してしまった。
彼女が俺と結婚して、幸せだと思ってくれる様に住む場所や行動様式、お金で解決できる事は糸目をつけなかった。堅実な彼女が率先して望む訳がない。
しかし家族が金で苦労した俺は、金で買える安全、教育の選択肢、夢を実現、助かる命がある事を知っている。
だから一生懸命稼ぐ。
今晩も先に就寝している咲楽に
「ただいま、愛してる」
と俺は囁く。きっと物音と気配で彼女はいつも通り、
「おかえり」
と寝ぼけながら返してくれるだろう。そこに「愛してる」は添えてくれない。意識があっても無くても彼女は言ったことがない。はにかんだ笑顔の「好き」が関の山。
愛も切り売り出来たら良いのに、そうしたら俺と同じ熱量、彼女から買うのになぁ…
(了)
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